古蹟
台湾では1982年に公布された文化遺産保存法によって、保存される建築物が指定されている。当初は、一級、二級、三級に分かれていたが、現在は、国定、直轄市指定、県(市)指定の三つに分類されている。1982年当時の古蹟保存の目的は、精神生活の充実と「中華文化の発揚」であったが、2005年の同法改正によって国民の精神生活の充実と「多元文化の発揚」に変わった。これにより、中華文化だけではなく、先住民の文化、さらには台湾を占領・統治したオランダや日本等に関わる建築物等も保存対象となり、台湾のあらゆる経験を包括する制度となった。多元文化の発揚とは台湾社会の多様性重視を反映するもので、古蹟認定における大きな特徴である。日本統治時代の建築物が現在多数古蹟に認定されている理由もここにある。
台湾の古蹟のもうひとつの大きな特徴は、その活用である。2005年の改正で「文化資産の保存」から「文化資産の保存及び活用」へと変更となり、多くの古蹟ではレストランやカフェ、書店等が併設され、古蹟は市民がそれを見るだけでなく、くつろぎ楽しむ場になっている。政府や自治体所有の古蹟等の建築物の運営を企業等に一定期間委託することで、有効活用を図っている。古蹟は図書館や行政機関等としても利用されている。例えば、日本統治時代の総督府は国定古蹟の総統府であり、同じく国定古蹟の旧台南州庁は国立台湾文学館となっている。古蹟は新石器時代から第二次世界大戦後までの歴史がうかがえる重要な場であると同時に、多くの人々が集う地域活性化や文化活動の拠点として台湾社会で欠かせないものとなっている。
もっと知りたい方のために
・片倉佳史『増補版 台北・歴史建築探訪』ウェッジ、2023年
・平野久美子編著『ユネスコ番外地 台湾世界遺産級案内』中央公論新社、2017年
・宮畑加奈子「台湾文化資産保存法改正(2016)の概要について」『広島経済大学研究 論集』40巻3号、2017年