廟
(びょう)
中華社会で伝統的に祀られてきた神を祀る宗教施設を一般に「廟」と呼ぶ。ただし「廟」はあくまで総称であって、個別の廟にはさまざまな名称(宮、殿、府、壇、観、祠、庵など)が使われる。台湾の民間信仰においては道教、仏教などが混合しており、比較的仏教的色彩が強い宗教施設は名称に「寺」が付くこともある。また孔子のような偉人を祀る場所についても孔子廟なとど呼ばれる。神仏分離が曖昧な台湾では仏教施設なのか道教施設なのか明確に区分できないことも多く、両者を合わせて「寺廟」と呼ぶこともある。祠のようなものから、宮殿のようなものまでさまざまなものがある。
廟の中に入ると人々が熱心に祈りを捧げているのを目にすることができる。中央の「正殿」には「主神」のほか、「協祀神」や「旁祀神」と呼ばれるさまざまな神々が祀られている。例えば関帝廟には主神として関帝が祀られるが、息子の関平や部下の周倉らも神として祀られている。そのほか、土地の神様「福徳正神」や出産や育児を司る「註生娘娘」(ちゅうせいにゃんにゃん)が祀られていることも多い。参拝客は神様のための紙製のお金である「金紙」、菓子や飲み物といった供え物を捧げる。そしてそれぞれの神様に線香を捧げ、祈るが、その願いの内容は、経済、健康、人間関係といった日常生活の上での問題に関することが多い。神様の思し召しを知りたい時にはおみくじやポエといった道具を介するが、より具体的に神様とコミュニケーションを取りたい時には童乩(タンキー)と呼ばれるシャーマンを通じて直接相談することもできる。廟の中は特徴的な装飾がなされており、頭上に掲げられる「匾額」は歴代の総統や著名な政治家が寄贈していることも多いので、注意深く見ると興味深い。
廟は死後に関することを扱う陰の廟と、現世に関することを扱う陽の廟に分けられる。前者は「地蔵王」や「城隍」(じょうこう)を主神とし、その配下である冥界の神々が祀られ、そこでは冥界で苦しんでいる死者を救済する儀礼が行われることが多い。後者は「玉皇大帝」(ぎょっこうたいてい)や「媽祖」(まそ)、「関帝」といった神々が祀られ、そこで日々の平安が祈られる。例えば春節のような慶賀の時には陽の廟に大勢が参拝するが、陰の廟に立ち寄る人はごく稀である。一方で、旧暦7月の、地獄から現世に「鬼」が出てくるとされる「普渡」(ふと)の儀礼は、陽の廟でも行われるが、陰の廟で特に念入りに行われる。
もっと知りたい方のために
・劉枝萬『台湾の道教と民間信仰』風響社、1994年
・佐々木宏幹「陰と陽のシンボリズム 台湾、台南市の事例から」『駒沢大学文化』第13号、1990年
・財団法人 台北市関渡宮