紀念館の入口(松葉隼氏提供)
二林蔗農事件紀念館
二林蔗農事件紀念館
砂糖にまつわる“苦闘”の歴史を今に伝える
日本統治時代の台湾において基幹産業となった製糖業。台湾の製糖業を支えたのは原料となるサトウキビを栽培、収穫する蔗農でした。しかし、彼らは台湾総督府が導入した原料採取区域制度などの影響で製糖会社から厳しい制約を受けており、つねに会社に対する不満を抱いていました。第一次世界大戦後の1925年、二林地域の蔗農が製糖会社に対して立ち上がり、争議を起こしました。二林蔗農事件紀念館は、この二林事件(二林蔗農事件)を記念する施設です。
学びのポイント
サトウキビと農民
台湾ではサトウキビを「甘蔗」(かんしょ)と呼び、甘蔗栽培に従事する人々を「蔗農」(しょのう)と呼びます。台湾では昔からサトウキビ、そして砂糖の生産が行われてきましたが、近代的な工場を建設し、本格的砂糖生産を行うようになったのは、今から100年ほど前の日本統治時代です。台湾で生産された砂糖は日本でさらに加工され、日本の食生活にも大きな影響を及ぼしました。洋食や洋菓子が日本で広まり、砂糖の消費量が増加すると、台湾でのサトウキビ栽培も拡大していきます。1905年から台湾総督府が導入した原料採取区域制度により、ある地域で生産されたサトウキビは特定の製糖工場が独占的に買い上げるようになります。栽培に必要な肥料は工場から購入することを強いられ、サトウキビの買上げ価格は工場側が決定できたため、蔗農は製糖会社や工場に不満をつのらせていきました。
社会主義、民族主義と農民運動
第一次世界大戦後、いわゆる「民族自決」の風潮と大正デモクラシーの影響を受け、台湾でも「台湾文化協会」が成立し、講演会や映画上映会といった啓蒙主義的文化活動が広がっていきます。こうした運動は台湾における民族的な意識や自覚を覚醒させるうえで大きな意義をもっていました。またこの時期は世界的に社会主義の影響が広がった時代でもあります。労働者は組合を結成し、労働条件などを改善すべく団結して会社と交渉する労働運動を行うと、しだいに農民も組合を結成し農民運動を展開するようになります。台湾でもこれら団体や運動の影響を受け、製糖会社・工場と農民との関係を改善したいと考える人々が登場しました。二林の人々は、同地のサトウキビを購入する林本源製糖に対して、購入価格引上げなどを訴える争議を始め、1925年6月には二林蔗農組合を組織しました。同年10月22日、会社側が労働者を雇い入れてサトウキビの収穫を強行し、農民側と衝突します。警察は農民やこの争議を支持した台湾文化協会のメンバーら400人を逮捕しました。これが二林事件です。
転機となった二林事件
二林事件は台湾で最初の本格的な農民運動・争議でした。この事件は後の台湾南部鳳山での農民運動にも影響を与え、簡吉(1903~51)による全島組織である台湾農民組合の結成にもつながりました。総督府はこうした農民運動や農民組合の動きを警戒し、共産主義の浸透阻止を理由に弾圧します。一方、二林事件の裁判では結成されたばかりの日本労農党の幹部、麻生久や布施辰治が弁護に参加しています。結局25名が有罪となりましたが、二林事件は台湾の農民運動、社会運動にとって記念碑的な意義をもつものとなりました。二林蔗農事件紀念館は日本統治時代に建てられた校長用の宿舎で、現在は二林国民小学校の構内にあります。館内では、二林事件についてはもちろん、二林の文化や歴史も紹介しています。
二林蔗農事件の記念碑(松葉隼氏提供)
さらに学びを深めよう
- 【事前学習】【事後学習】砂糖の製造過程について調べてみましょう。
- 【事前学習】【事後学習】現在の日本でサトウキビを栽培している場所があるか調べてみましょう。
- 【現地体験学習】戦後、二林でサトウキビが栽培されているか確認してみましょう。
参考資料
原料採取区域制度や二林事件については、専門書で難しいですが、久保文克 『戦前日本製糖業の史的研究』(文眞堂、2022)で取り上げられています。日本統治期台湾を代表する農民運動(二林蔗農事件)の指導者の獄中日記を発掘した都留俊太郎による「二林蔗農事件の背景の再検討 : 地域史からみた日本統治期台湾農民運動」(『歴史学研究』979号、2019年)も専門的ですが読み応えがあります。日本統治時代の台湾における社会運動、民族運動については、みんなの修学旅行ナビ「台湾新文化運動紀念館」で紹介されています。台湾に限りませんが、砂糖の歴史を知るには、川北稔『砂糖の世界史』(岩波ジュニア新書、1996年)をおすすめします。また、台湾修学旅行アカデミーby SNET台湾には砂糖の歴史について紹介した「第12回 台湾と砂糖~甘い砂糖のしょっぱい話~」(講師:清水美里)があります。このほか、みんなの台湾修学旅行ナビでは、「花蓮観光糖廠」「虎尾製糖工場」「台湾製糖業博物館」が紹介されています。中国語ですが、こちらのデジタルブックでは、二林蔗農事件紀念館の内部の写真を見ることができます。
- ウェブサイト
- 公式
https://culture.bocach.gov.tw/
(中国語)
- 彰化旅游資訊網(彰化県政府城市暨観光発展処)
https://tourism.chcg.gov.tw/AttractionsContent.aspx?id=425&chk=3f99c34d-b651-46f2-ae78-f5623191a44a
(中国語)
- 所在地
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彰化県二林鎮斗苑路五段22号
- 特記事項
- 参観に際しては事前に二林国民小学校に連絡を取る必要があります。