松葉隼撮影

エリア
テーマ

橋頭糖廠

台湾糖業博物館

コロニアル様式の建築に彩られた台湾「初」の製糖工場

台湾南部高雄市の北部にある橋頭製糖工場は、1900年に台湾製糖株式会社が台湾ではじめて建設した本格的な近代製糖工場です。1999年まで、現役の製糖工場として稼働していましたが、現在は台湾糖業博物館として、広大な工場跡を開放しています。製糖工場跡地の見学ができるほか、庭園や迷路などが設置され、工場で利用されていた鉄道車両も展示されています。橋頭には、1901〜02年に建設された事務所や社宅が今も残されています。事務所はオランダ風のコロニアルスタイルが採用され、台湾建築史上でも重要な建築物です。

学びのポイント

台湾「初」の近代製糖工場

1895年、日清戦争の結果日本と清の間で結ばれた下関条約により、台湾は大日本帝国の領土に組み込まれることになりました。北海道や沖縄を別にすれば、台湾は日本にとって最初の「植民地」でした。日本政府による台湾統治機関として置かれた台湾総督府は、台湾開発の中心を砂糖の生産、すなわち製糖業にすることを決めました。台湾では古くから砂糖を生産していましたが、日本国内での砂糖需要を満たすには本格的な製糖技術の確立と製糖工場の建設が不可欠でした。その結果設立されたのが台湾製糖株式会社であり、同社の最初の製糖工場が、のちに橋頭製糖工場となる橋仔頭製糖所でした(第二次世界大戦後に工場のある橋仔頭という地名が「橋頭」に変わりました)。橋仔頭製糖所は台湾初の本格的な近代製糖工場として、1900年から建設に向けた調査が始まり、1902年に竣工、稼働を開始しました。以来100年近くにわたって、製糖工場としての歴史を重ねてきました。

松葉隼撮影

工場跡が広大な博物館に

橋仔頭製糖所の建設過程で、台湾総督府は台湾で本格的な製糖事業を展開していくには、本格的な改良が必要であることを認識します。そこで、札幌農学校を卒業し、アメリカ、ドイツへの留学経験のある農業経済学者、新渡戸稲造を破格の条件で招聘します。新渡戸は1901年に『糖業改良意見書』を台湾総督に提出、この意見書が台湾総督府による糖業政策の基本となりました。新渡戸は、品種や土質、水利の改良とともに、近代的な製糖工場の建設を主張し、これ以降台湾中南部を中心に、大規模な製糖工場の建設が進むことになります。橋仔頭に建設された製糖工場はその最初のものであり、他の工場の模範とされました。 第二次世界大戦後は、国営企業である台湾糖業公司が経営を引き継ぎ、工場の運営を続けていました。しかし1990年代には経済構造の変化や、国際競争力の低下などの理由で台湾の製糖業は縮小していきます。橋頭製糖工場も1999年に製糖工場としての役目を終えました。台湾国内の他の製糖工場も、この前後の時期にほとんどが閉鎖されています。 現在は旧工場が観光園区、台湾糖業博物館として再整備され、製糖工場跡を見学できるほか、庭園や迷路があり、糖業鉄道(シュガートレイン)にも乗車できる、複合型の娯楽施設に生まれ変わっています。

松葉隼撮影

はなやかなヨーロッパ風建築物

このように、製糖工場跡を再活用した施設は台湾各地にあります。なかでも彰化県の渓湖や嘉義県の蒜頭が著名な例ですが、この橋頭製糖工場には、他の製糖工場跡にはあまり見られないものがあります。それは製糖工場の事務所として建てられたヨーロッパ風の建築物です。製糖工場跡には、多くの場合、日本統治時代に社宅や事務所、接待所として建てられた日本風の建築物が残されており、橋頭でもこうした建築物を見ることができます。しかし、橋頭ではモダンなヨーロッパ風の建築物も見られるのです。 橋仔頭製糖所は、台湾初の本格的な製糖工場であったことから、一時は台湾製糖株式会社の本社が置かれていました。そのため、当時最先端の工場を訪れる要人を接待する施設も必要でした。このような施設として建てられた、コロニアルスタイル(植民地様式)の建築物を、現在も見学することができます。建物全体を高床式にし、周囲に回廊を巡らせた開放的なデザインが特徴的で、一説には、かつて台湾南部を領有していたオランダ風のデザインを取り入れたとされます。橋頭は、砂糖や製糖産業だけでなく、台湾の建築の歴史を考える上でも非常に重要な場所なのです。
松葉隼撮影

さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】【事後学習】台湾修学旅行アカデミー(第12回)の「台湾と砂糖~甘い砂糖のしょっぱい話~」を見て、台湾の製糖業の歴史について調べてみましょう。
  • 【事前学習】【事後学習】台湾には見学できる旧製糖工場がたくさんあります。ほかにどのような工場があるか調べてみましょう。
  • 【現地体験学習】製糖工場跡のヨーロッパ風建築を見学しましょう。「コロニアルスタイル」の特徴を探してみましょう。
参考資料
台湾の製糖業については、赤松美和子・若松大祐編著『台湾を知るための72章』第2版(明石書店、2022年)や伊藤潔『台湾―四百年の歴史と展望』(中公新書、1993年)のような入門書にも言及があります。日本統治時代の製糖業について専門的知識を深めたい方は、矢内原忠雄著、若林正丈編『矢内原忠雄「帝国主義下の台湾」精読』(岩波現代文庫、2001年)にチャレンジしてみましょう。台湾だけではありませんが、砂糖の歴史を知るには、川北稔『砂糖の世界史』(岩波ジュニア新書、1996年)をおすすめします。また、台湾修学旅行アカデミーby SNET台湾には砂糖の歴史について紹介した「第12回 台湾と砂糖~甘い砂糖のしょっぱい話~」(講師:清水美里)があります。このほか、みんなの台湾修学旅行ナビでは、「花蓮観光糖廠」が紹介されています。

(松葉隼)

ウェブサイト
公式 https://www.taisugar.com.tw/chinese/Attractions_detail.aspx?n=10048&s=2&p=01172211726

(中国語)


高雄旅遊網(高雄市政府観光局)https://khh.travel/ja/attractions/detail/639
所在地
高雄市橋頭区糖廠路24号