松葉隼撮影

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虎尾糖廠

虎尾製糖工場

台湾製糖業の歴史を今に伝える「五分車」

台湾南部の雲林県には、いまや台湾唯“二”の存在となった現役製糖工場があります。日本統治時代に建設され、東洋一の生産能力を誇った製糖工場は、虎尾の名を「糖都」として世に広めました。台湾の製糖業が衰退する中でも現役として活躍する製糖工場には、台湾唯一の存在である現役製糖用鉄道がサトウキビを運搬します。周囲には、日本人社員用の宿舎も残され、長らく台湾の発展を支えてきた製糖業の歴史と雰囲気を感じることができます。

学びのポイント

台湾と製糖工場

かつて、台湾は砂糖の島でした。彰化や嘉義、高雄、台南など、中南部には多くの製糖工場がありました。日本統治時代には、日本資本の企業を中心に近代的な大規模な工場が建設されました。虎尾製糖工場もそのひとつで、1909年に当時の大日本製糖(現在のDM三井製糖ホールディングス)によって設立されました。台湾が中華民国政府の統治下に置かれるようになってから、もともと日本企業が運営していた製糖工場は、新たに国営企業である「台湾糖業公司」(台糖)のもとへ統合され、虎尾工場も同社のもとで運営されるようになりました。

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台湾唯“二”の現役製糖工場

虎尾製糖工場がある雲林県は、台湾の南部に位置し、“台湾の穀倉”とも呼ばれるように、農業のイメージが強い地域です。虎尾製糖工場は、そのなかでも雲林県のほぼ中心にあたる虎尾鎮に位置しています。創立当初は、台湾最大の生産能力を持つ工場であり、「東洋一」とも称された大規模な工場でした。それゆえ、「製糖工場なくして虎尾なし」とまで讃えられ、虎尾は一時「糖都」(砂糖の都)とさえ呼ばれるようになったといいます。それぐらい虎尾製糖工場はこの地域を代表する工場であり、産業の中心でした。 第二次世界大戦後になっても、砂糖は引き続き台湾の重要な輸出品でしたが、経済構造の転換や、工業や第三次産業の発展に伴い、1990年代には台湾の製糖業は徐々に衰退が進んでいきます。台糖旗下の工場も徐々に廃止や統合が進み、現在ではわずか二か所が残るのみとなりました。そのひとつがこの虎尾製糖工場です(もうひとつは台南の善化工場)。かつての台湾の主力産業である製糖業の歴史を今につたえる貴重な存在です。

松葉隼撮影

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台湾唯“一”の現役製糖用鉄道

虎尾製糖工場で忘れてはならないのは、今や台湾唯一の存在となった製糖用鉄道(シュガートレイン)です。台湾の砂糖生産では、原料としてサトウキビが使われてきました。サトウキビを育てるため、製糖工場の周辺地域を中心として、広大な畑がつくられました。また製糖工場は、一般の鉄道から少し離れたところにつくられていました。そこで、広大な畑で刈り取られたサトウキビを工場まで運んだり、あるいは工場から製品や資材などを鉄道の駅まで運んだりするために、製糖用の鉄道が活用されました。こうした鉄道は、一般の鉄道よりも小さく、レール幅が世界的に標準とされる標準軌の約半分しかないことから、「五分車」と呼ばれていました。一部は旅客列車も運行され、地域の人々が買い物や外出に利用していました。かつては台湾全土にこのような製糖用鉄道が張り巡らされていましたが、自動車の発達とともに、サトウキビや製品の輸送もほぼトラックに切り替えられ、多くが廃止されました。虎尾でもトラックを利用していますが、製糖用鉄道が一部残され、現在もサトウキビ輸送に使用されています。毎年12月から4月頃の収穫シーズンの平日には、たくさんの貨車を連ねたシュガートレインが虎尾の街を走り抜けます。

松葉隼撮影

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さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】【事後学習】台湾修学旅行アカデミー(第12回)の「台湾と砂糖~甘い砂糖のしょっぱい話~」を見て、台湾の製糖業の歴史について調べてみましょう。
  • 【事前学習】【事後学習】現在も虎尾で利用されている製糖用鉄道は、ほかにはどのような地域で利用されていたでしょうか。調べてみましょう。
  • 【現地体験学習】 製糖工場を見学しましょう。砂糖はどのように生産されるでしょうか。
参考資料
台湾の製糖業については、赤松美和子・若松大祐編著『台湾を知るための72章』第2版(明石書店、2022年)や伊藤潔『台湾』(中公新書、1993年)のような入門書にも言及があります。日本統治時代の製糖業について専門的知識を深めたい方は、矢内原忠雄著、若林正丈編『矢内原忠雄「帝国主義下の台湾」精読』(岩波現代文庫、2001年)にチャレンジしてみましょう。台湾だけではありませんが、砂糖の歴史を知るには、川北稔『砂糖の世界史』(岩波ジュニア新書、1996年)をおすすめします。また、台湾修学旅行アカデミーby SNET台湾には砂糖の歴史について紹介した「第12回 台湾と砂糖~甘い砂糖のしょっぱい話~」(講師:清水美里)があります。このほか、みんなの台湾修学旅行ナビでは、ほかにも「花蓮観光糖廠」が紹介されています。シュガートレインについては、イカロスMOOK『最新版台湾鉄道旅行―客車列車が絶滅寸前!いまが最後のチャンスだ!』(イカロス出版、2019年)で紹介されています。

(松葉隼)

ウェブサイト
公式 https://www.taisugar.com.tw/chinese/Attractions_detail.aspx?n=10048&s=69&p=0

(中国語)

所在地
雲林県虎尾鎮中山路2号

特記事項
工場内の見学は製糖時期の平日のみで、前週までの事前予約が必要。シュガートレインは、おおむね12月から4月の収穫期に運行。運行時間帯については要確認。