夜市

藤岡達磨

主に夜間に営業する屋台や露店、商店が集中する場所。高校や大学などの教育機関、駅や港などの交通機関、寺廟に代表される宗教施設など、不特定多数の人々が出入りする場所に形成されることが多い。主に生鮮食料品を扱う朝市とは異なり、夜市では主に調理された食べ物と衣服、雑貨などの流行品が扱われる。また、縁日の射的等のようなゲームもあり、エンターテイメント性が強いのも特徴である。

夜市には店舗を備え毎晩営業する常設型の「観光夜市」と、特定の曜日に屋台が集結する「流動夜市」の2つの種類がある。屋台だけで数百の店舗を数える巨大な夜市もあり、一晩で数万人の消費者が訪れる場合もある。中華民国経済部(経済省)の調査によると、2023年時点の台湾で登録されている流動夜市は164ヶ所に上り、これに観光夜市を加えると300以上の夜市が台湾に存在していると考えられる。

台北市市場管理処は、「夜市とは、夜の6時から12時までを営業時間とし、有効な管理の下で営業を許可された露店のことであり、台北市民に夜間の休息、街遊び、消費場所を提供するもの」と定義しており、多くの場合、夜市にはそれぞれの市場を取り仕切る夜市管理組合が組織されている。また、このような制度面だけでなく、屋台が人々を引きつけその場が賑わっていることが、文化的に見て夜市が存在する条件にもなっている。つまり、管理組合があって政府に登録されていても、その場が賑わっていなければ、一般的にはそこに夜市があると見なされない。すなわち、夜市とは夜の時間に、夜市管理組合の管理下で、娯楽目的で営業し、多くの客で賑わっている市場であるといえる。賑わいの場としての夜市文化の歴史は古く、孟元老の『東京夢華録』などの記述によると、遅くとも宋代には都市部に夜市という場が存在したと考えられている。また、現在のタイ、インドネシア、マレーシア、シンガポールなど東南アジア各地にも、夜市の慣習がある。

もっと知りたい方のために

・ 藤岡達磨「文化商品の国境を越えた移動によるハイブリッドな文化価値の構成 : 台湾への日本ラーメン屋台の移動・適応・受容の過程から」『海港都市研究』12:3-22、神戸大学大学院人文科学研究科海港都市研究センター、2017年
・ 藤岡達磨「想像の共同体の現実化の場所としての夜市 : 社会的余暇活動による経験の共有に注目して」『社会学雑誌』33:180-199、神戸大学社会学研究会、2017年
・ 滕淑芬 「無秩序の合理性台湾のナイトマーケット」『台湾光華雑誌』2010年12月号、光華畫報雜誌社、

写真出典

藤岡達磨提供