文創

上水流久彦

文創とは、政府の「発展文化創意産業計画」(2002年発表)に基づき2010年に制定された「文化創意産業発展法」にある「文化創意産業」(文化・クリエイティブ産業)の略称。2000年代半ばから台湾で広がりをみせている。現在進行形で展開する文創の定義は難しいが、ここでは、便宜的に台湾的文化要素(デザイン、習慣、建築物等)を創造的にスタイリッシュで、モダンで、アートなものに変え、それらを活用して行うビジネスとしておく。

ただし、『TAIWAN FACE GUIDE FOR 台湾文創創』で紹介される50名の登場人物の文創への思いはその枠には収まらない。例えば、ある人は文創を「真面目に生活する、人生を真剣に生きるということ」と語り、別な人は「名詞ではなく、持続的に思考を反復するという動詞の状態」とする。なかには自分の作品を文創に結び付けたくないとさえ語る人もいる。まさにこの多様さと革新性が文創の核心である。

台湾で文創が広がる背景に、台湾意識の浸透がある。2000年代以降、台湾を中国の一部ではなく台湾としてとらえ、台湾文化への愛着を深め、自身を台湾人だと考える人が増えてきた。そうした意識の変化が、生活習慣等の台湾文化に根差した文創の展開を可能としてきた。文創の土台には、台湾の社会や文化に自信を持つ台湾の人々の思いがある。そのような台湾への愛着は、「あぁ、台湾だ」という思いにさせてくれる日常の何気ない暮らしや風景、建物への再評価につながっている。台湾の伝統的な意匠や生活用品をもとにオリジナルにデザインされたグッズ、さらには料理のメニューや生活スタイルが、文創の一環として生み出されている。

台湾各地に存在する日本統治時代に建てられた建物の中には、レトロでモダンな雰囲気を楽しむ文創の拠点になっているものもあり、台北市の紅楼、台南市の林百貨、花蓮市の花蓮文化創意産業園区などが有名である。さらに戦後、国民党とともに渡ってきた人々が集住した古い住宅街(眷村/けんそん)の一部も、文創のもとでリノベーションされ、モダンな観光地となっている。彼らは外省人と称され、本省人と言われる台湾に戦前から住む人々やその子孫との対立が長らく指摘されてきた。だが、文創による眷村の利活用は、そのような対立をアートの力で乗り越え、眷村をも台湾文化に融合していく力になっている。

もっと知りたい方のために

・小路輔監修『TAIWAN FACE Guide for 台湾文創』トゥーヴァージンズ、2018年
・小路輔監修『TAIWAN EYES Guide for 台湾文創』トゥーヴァージンズ、2020年
・張海燕「台北における近代化遺産の保存と活用の両立」『名城論叢』20巻4号、2020年
・上水流久彦「歴史を結ぶ近代建築、歴史を融合させる「文創」」台北駐日経済文化代表処台湾文化センター『台湾を知るためのブックガイド:臺灣書旅』2022年