林百貨 林百貨

現代に蘇ったレトロなデパート

日式建築が密集して残る台南の中心部。そこでいまいちばん人気のスポットがここ、林百貨。といっても、ただのデパートではなく、約90年前の空間を忠実に蘇らせた、レトロ・リノベーション(改修)の建物なのです。1932年、台南の銀座といわれた末広町に建てられたこのビルは、鉄筋コンクリート造で5階建てという、当時の最先端で話題になりました。台湾南部では初めて導入されたエレベータも人気で、利用を待つ人の行列が出来たそうです。タイル貼りで円や直線を多用した幾何学的なデザインは、これまた最先端のアール・デコ様式。台北の菊元百貨店と双璧をなす一大人気スポットになったのでした。戦後は接収され、その後は修理もされずに廃虚同然に。ところが「これは当時の技術と美意識を総結集した価値のある建物だ」と、台南市が文化財(古蹟)に指定し、昔のままのデパートとして復原。2014年に、名前もそのまま「林百貨」としてオープン。ふたたび国内外からのお客さんで溢れる店になりました。

学びのポイント

なぜ屋上に神社があるの?

屋上には小さな祠(ほこら)と鳥居があります。これは稲荷社が祀られていた時の名残りです。建物の完成と開業を待たずに亡くなったオーナーの林方一氏の供養と店の発展を願って設置されたと伝えられています。ご神体自体は終戦後に撤去されました。傍には、石造に見える灯籠がありますが、実はこれはモルタル(セメントと砂と水を混ぜたもの)で左官屋さんが手作りしたもの。精巧なアート作品のようで、当時のままに展示されています。

赤松美和子撮影

ギザギザしたタイルが特徴?

建物の壁を見てください。表面に幾筋もの谷が刻まれたタイルが全面に貼られています。これを「溝面磚」と呼びます。日本ではスクラッチタイルと呼ばれるこの外装材は、1920年代以降、日本とその植民地の建築で大流行しました。そのルーツは、1923年に東京に建てられた帝国ホテル(フランク・ロイド・ライト設計)といわれています。スクラッチとは、爪などでひっかくという意味。無機質の焼き物でありながら、表面に表れる凹凸によって陰影が加わり暖かみのある雰囲気を纏うことが出来るのです。溝の数は9本、13本、20本以上など、などさまざまなパターンがあります。

「林百貨の弟たち」はどこに?

末広町は現在の中正路というストリート。台南でも特に賑やかなゾーンでした。日本統治時代、ここには、林百貨と外観がよく似た3階建ての店舗兼住宅が、ズラリと並んでいたのです。その姿はまるで「林百貨の弟」のようでした。実は、そのうちのいくつかは今も残っているのです。窓や屋根の形を変え、店の看板を貼り付けながらも、あの丸窓が可愛く続いています。それを見つける楽しみも、まちあるきの醍醐味です。

渡邉義孝画

さらに学びを深めよう

  1. 【事前学習】【事後学習】外壁にはいまも戦争中の弾痕が残っています。台湾は当時、どの国と戦争をしていたのでしょうか?
  2. 【事前学習】【事後学習】台南市は、台湾の中でも特に歴史的建造物の保存再生が盛んな土地だといわれています。どんな先駆的な政策があったのか、調べてみましょう。
  3. 【現地体験学習】エレベータの床は当時の仕上げを再現しています。何でできていますか?

参考資料

林百貨については、横山透『台湾百年ストーリー』(2019年、辰巳出版)、新井一二三『台湾物語』(2019年、筑摩書房)などを読んでみてください。台湾における古い建物の活用については、独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所保存科学研究センター近代文化遺産研究室『台湾における近代化遺産 活用の最前線』(独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所、2020年)が参考になります。

(渡邉義孝)

ウェブサイト
公式http://www.hayashi.com.tw/ 台南旅遊網(台南市政府観光旅遊局)https://www.twtainan.net/ja/attractions/detail/4796
所在地
台南市忠義路二段63号