歴史を感じさせる正門(郭復齊先生提供)

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國立臺南第一高級中等學校

国立台南第一高校

古都で学ぶ、古都を学ぶ:台南に息づく100年の知恵と文化

国立台南第一高校(南一中)は、台湾で最も長い歴史のある台南に位置しています。南台湾を代表する由緒正しい高校であり、政治家、アーティスト、研究者など、台湾を牽引する人材を多数輩出しています。同校は1922年に台南州立台南第二中学校として創設されました。戦後の1945年に台湾省立台南第一中学に、1970年に台湾省立台南第一高校、2000年に国立台南第一高校と改称されました。もともと男子校でしたが、2009年に共学の科学クラスを設置して、共学校になりました。100年以上の歴史を誇る南一中は、グローバルな教育を推進しながら、台南の歴史や文化を大事にする地域密着型教育も展開しています。

学びのポイント

「内台共学」から生まれた高校

1922年に台湾総督府は「内台共学」(内地人=日本人と台湾人の共学)を標榜した第二次台湾教育令を施行しました。中学校不足を解消するために、台南で日本人生徒を対象とした台湾総督府台南中学校(現在の国立台南第二高校)に加えて、台南州立台南第二中学校(現在の国立台南第一高校)を新設しました。ただし、内台共学とは言っても、元々日本人のために設置された中学校に台湾人が合格することは極めて困難でした。台南州立台南第二中学校は、開校当初は竹園小学校の校舎を借用していましたが、1930年代に新校舎が完成しました。戦後は、長らく「台南四省中」(台南市の省立高校トップ4)の一つとして知られ、市外から越境入学する生徒が半数を超えた時代もありました。現在は教育政策の転換によってほとんどの生徒は市内出身になりましたが、南台湾を代表する高校として揺るぎない地位を誇っています。

自然と歴史に包まれたグローバルな教育

南一中は設立当時の地名にちなみ、現在も「竹園岡」と呼ばれることがあります。現在、南一中の周囲には竹林がなくなりましたが、キャンパスの中心に推定樹齢150年を超える大きなガジュマル(榕樹)があり、同校のシンボルと生徒たちの憩いの場として親しまれています。戦前に建てられたレンガ造りの校舎は、台南市の文化財に登録され、大事に使われています。第二次世界大戦中に空襲を受けた跡もまだ残っています。キャンパス内にある台湾府城の石垣跡は、清朝統治時代の1788年に築かれたもので、国の文化財に指定されています。こうした自然と歴史に包まれたキャンパスの中で、中国語と英語によるバイリンガル教育クラス、数理教育クラス、高大連携の科学教育クラスなど、最先端の教育実験が行われ、国際交流にも積極的に取り組んでいます。

推定樹齢150年を超えるガジュマルの巨木(郭復齊先生提供)


地域に根ざした人材の育成

理系の名門校というイメージが強い南一中ですが、古都・台南にあって文化・芸術の世界で活躍する卒業生も輩出しています。楊逵(よう・き、1906-1985)、楊熾昌(よう・ししょう、1908-1994年)、葉石濤(よう・せきとう、1925-2008年)など、台湾文学の礎を築いた作家のほか、アカデミー監督賞を受賞した世界的映画監督アン・リー(李安)も南一中の卒業生です。また、台湾を代表する音楽賞である金曲賞を受賞した卒業生、蛋堡(ダン・バオ)、謝銘祐(シェ・ミンヨウ)、蘇明淵(スー・ミンユェン)は、いずれも地元の言語・文化・歴史を音楽で表現しています。蛋堡が南一中での高校生活をもとに制作した「Skool Life 一中生活」は、南一中の「地下校歌」とも呼ばれています。また、科学教育クラスは1年をかけて台南の文学と歴史を調査し、「走読」(スタディーツアー)のガイドブックとして『府城文学地図1、2』を2015年に出版しました。ガジュマルのように土地に根ざした地域密着型の教育は、グローバル教育とともに、南一中の歩みを支える両輪となっています。
さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】日本統治時代に、台湾人の小学生はどのような教育を受けられたか、そして、中学進学においてどのような困難があったのか、その歴史を調べてみましょう。
  • 【事前学習】自分の高校が地域とどのようなつながりを持っているのか、また、生徒として地域のためにどのような取り組みができるのか、考えてみましょう。
  • 【現地体験学習】南一中の生徒たちは、自校のキャンパスや台南という街の歴史に強い誇りを持っています。学校の歴史や学校生活だけではなく、地域のことも聞いてみましょう。
参考資料
台南という街の歴史および台湾史での位置付けに関しては、大東和重『台湾の歴史と文化―六つの時代が織りなす「美麗島」』(中公新書、2020年)があります。また、葉石濤と台南に関して、自伝的小説『台湾男子簡阿淘』(法政大学出版局、2020年)があります。山口守編『パパイヤのある街 台湾日本語文学アンソロジー』(皓星社、2024年)には楊逵の作品が収録されています。各作品と作家の台湾文学史での位置付けについては、赤松美和子『台湾文学の 中心にあるもの』(イースト・プレス、2025年)を読んでみましょう。 SNET台湾では、台湾修学旅行ナビで同じ台南市にある葉石濤文学紀念館楊逵文学紀念館が紹介されています。また、台南一中のキャンパスライフの様子がわかる卒業ソング「カーキ色の青春」(日本語字幕付き)も配信しています。Amazonミュージックなど音楽配信サービスでは、蛋堡、謝銘祐、蘇明淵の作品が配信されています。ぜひ音楽を通じて南一中、そして台南の雰囲気を感じてください。

(許仁碩)

ウェブサイト
公式 https://www.tnfsh.tn.edu.tw/

(中国語・英語)

所在地
台湾台南市東区民族路一段1号

特記事項
高校は一般公開されていません。同校との交流を希望される場合は、事前に、直接同校、またはSNET台湾事務局にお問い合わせください。