黒羽夏彦撮影

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臺南市美術館1館

台南市美術館1館(旧台南警察署)

レトロな歴史建築を活用し、新しい芸術文化と対話できる空間へと再生

台南の文化的気風を象徴する孔子廟を中心とする地域は「孔廟文化園区」とされています。その中の一角に台南市美術館が設立されました(2018年10月から試験運営が始まってしましたが、正式開館は2019年1月です)。台湾で初めて行政法人として運営される美術館で、新旧二つの建物が孔子廟を挟み込むように向かい合っています。かつての日本統治時代、この地域には行政機関が集中していましたが、台南市美術館も昔の警察署をリノベーション(古い建築の再生活用)して、レトロな雰囲気の中で現代美術と対話できる文化空間として生まれ変わらせました。

学びのポイント

二つの館の建築の特徴は?

台南市美術館は新旧二つの建物で構成されており、それぞれ1館、2館と呼ばれています。1館は1931年に落成した台南警察署を前身とし、戦後も引き続き警察署として利用されました。正面玄関の丸みを帯びた形状は警帽をかたどっているといわれます。1998年に台南市の古蹟に指定された後、リノベーションを施されて美術館として生まれ変わりました。一階には建築の来歴や構造を示した展示室があり、設計技師・梅澤捨次郎についても紹介されています。2館は真っ白な幾何学模様が目を引く斬新な建築で、その形状は台南を象徴する鳳凰花を表現しているそうです。日本の坂茂事務所と台湾の石昭永事務所との共同設計で建てられました。

黒羽夏彦撮影

むかし日本の神社があったそうですね?

2019年に完成した台南市美術館2館の敷地は、日本統治時代に台南神社だった場所です。日清戦争後の1895年、下関条約で清朝から日本へ台湾が割譲されたとき、接収のため日本軍が派遣されます。皇族の北白川宮能久親王が近衛師団長として台湾へ上陸したのですが、疫病に倒れ、現在、台南市美術館2館がある場所で死去しました。後に追悼のため台南神社が建てられます。この神社は、戦後、政府によって忠烈祠に転用されました。美術館2館の裏手には、かつて台南神社があったことを示す記念碑がひっそりと佇んでいます。また、台南神社の社務所だった建物は、現在、向かい側の忠義国民小学の図書館として活用されています。

黒羽夏彦

展示にはどんな特色がありますか?

台南市美術館は台湾の現代美術を中心に企画展示活動が行われています。企画展示は時期によって異なりますので、詳細は美術館のホームページで確認してください。その他、2館二階では「南薰藝韻」という常設展示も行われています。ここでは主に台湾南部に縁のある陳澄波・郭柏川・許武勇・沈哲哉という4人の画家を紹介しています。4人とも日本統治時代に生まれ育った芸術家ですが、それぞれ時代の変転に翻弄されました。彼らの足取りを通して、台湾の近代美術がたどった複雑な来歴を垣間見ることもできます。
さらに学びを深めよう
  • 【現地体験学習】台南市美術館1館は、日本統治時代の警察署で、戦後も引き続き警察署として使われていました。警察署であったことを感じされるものを探してみましょう。
  • 【事前学習】【事後学習】歴史建築のリノベーションについて考えてみよう。
  • 【事前学習】【事後学習】台湾の美術史について調べてみよう。
参考資料
台湾の美術史について日本語で読める本としては、森美根子『台湾を描いた画家たち──日本統治時代画人列伝』(産経新聞出版、2010年)、『語られなかった日本人画家たちの真実──日本統治時代台湾』(振学出版、2018年)があります。台南市美術館2館はもともと日本統治時代の台南神社の跡地に建てられましたが、金子展也『台湾に渡った日本の神々──フィールドワーク日本統治時代の台湾の神社』(潮書房光人新社、2018年)で紹介されているほか、神奈川大学非文字資料研究センター「海外神社(跡地)に関するデータベース」にも登録されています。

(黒羽夏彦)

ウェブサイト
公式https://www.tnam.museum/ 台南旅遊網(台南市政府観光旅遊局)https://www.twtainan.net/ja/attractions/detail/4781
所在地
1館:台南市中西区南門路37号
2館:台南市中西区忠義路二段1号