台南市美術館は新旧二つの建物で構成されており、それぞれ1館、2館と呼ばれています。1館は1931年に落成した台南警察署を前身とし、戦後も引き続き警察署として利用されました。正面玄関の丸みを帯びた形状は警帽をかたどっているといわれます。1998年に台南市の古蹟に指定された後、リノベーションを施されて美術館として生まれ変わりました。一階には建築の来歴や構造を示した展示室があり、設計技師・梅澤捨次郎についても紹介されています。2館は真っ白な幾何学模様が目を引く斬新な建築で、その形状は台南を象徴する鳳凰花を表現しているそうです。日本の坂茂事務所と台湾の石昭永事務所との共同設計で建てられました。
黒羽夏彦撮影
2019年に完成した台南市美術館2館の敷地は、日本統治時代に台南神社だった場所です。日清戦争後の1895年、下関条約で清朝から日本へ台湾が割譲されたとき、接収のため日本軍が派遣されます。皇族の北白川宮能久親王が近衛師団長として台湾へ上陸したのですが、疫病に倒れ、現在、台南市美術館2館がある場所で死去しました。後に追悼のため台南神社が建てられます。この神社は、戦後、政府によって忠烈祠に転用されました。美術館2館の裏手には、かつて台南神社があったことを示す記念碑がひっそりと佇んでいます。また、台南神社の社務所だった建物は、現在、向かい側の忠義国民小学の図書館として活用されています。
黒羽夏彦
台南市美術館は台湾の現代美術を中心に企画展示活動が行われています。企画展示は時期によって異なりますので、詳細は美術館のホームページで確認してください。その他、2館二階では「南薰藝韻」という常設展示も行われています。ここでは主に台湾南部に縁のある陳澄波・郭柏川・許武勇・沈哲哉という4人の画家を紹介しています。4人とも日本統治時代に生まれ育った芸術家ですが、それぞれ時代の変転に翻弄されました。彼らの足取りを通して、台湾の近代美術がたどった複雑な来歴を垣間見ることもできます。