展示館の外観(松葉隼撮影)
潮州鐵道園區
潮州鉄道園区
台湾鉄道を支える工場で鉄道について学ぶ
潮州鉄道園区は、屏東県潮州鎮の台湾鉄路有限公司(以下、台鉄)潮州鉄道車両基地・潮州機廠に隣接する、台湾南部に新たに生まれた「鉄道の街」を象徴する施設です。日本統治期から、南部における鉄道修理は高雄鉄道工場(高雄機廠)が担ってきましたが、高雄市内の再開発にあわせ、2021年に現在地の潮州へと移転、2022年に潮州機廠となりました。現在では、車両整備の拠点であるとともに、地域住民の憩いの場にもなっています。広い園内にはかつて台湾を走った特急電車やディーゼル特急をはじめ、客車・貨車・事業用車など約20両が展示されています。展示館や宿泊施設も併設され、園内を遊覧車で巡ることもできます。展示館では、高雄・潮州機廠の歴史と台鉄における鉄道保守と修理について学ぶことができます。
学びのポイント
台湾南部における鉄道工場の変遷
潮州鉄道園区は、屏東県潮州鎮に所在する台鉄潮州鉄道車両基地・潮州機廠の隣に位置しています。潮州鉄道車両基地・機廠は、車両基地機能と車両の整備、点検、および補修の機能を持っています。台鉄は台北、彰化、嘉義、台東など各地に「機務段」と呼ばれる車両基地を設けていますが、車両の整備・補修を大規模に行う機能を持っているのは、北部・桃園市にある富岡鉄道車両基地・富岡機廠、東部・花蓮市にある花蓮機廠、そして南部・潮州鉄道車両基地・潮州機廠の3つです。日本統治時代から、北部・南部・東部の各地に鉄道工場が設けられてきました。南部には、打狗駅(後の高雄駅→高雄港駅)のそばに鉄道工場が設けられ、縦貫線や屏東線の車両を点検、整備していました。この高雄鉄道工場は、日本の統治が終わり、台湾鉄路管理局が発足したあと、高雄機廠と改称され、その後も使用されました。しかし、車両が大型化し、蒸気機関車からディーゼル車へと近代化も進んだ1960年代には手狭となり、1975年に高雄市郊外へと移転しました。ところが、高雄地域の都市化と人口増加が進むと、市街地を東西南北に走行する鉄道各線は、市内交通を阻害する要因と考えられるようになります。そこで、高雄市街の鉄道地下化が計画されます。1990年代から計画されたこの工事は、2018年に高雄駅と縦貫線・屏東線が地下化され、一段落を迎えます。
台湾南部最大の鉄道工場・車両基地
台湾西部の大動脈である縦貫線は、北は基隆、南は高雄を発着駅としています。両地はともに大規模な港湾に隣接し、船で運ばれてきた貨物と旅客をスムーズに台湾各地へと運ぶことができる構造となっています。1900年に設けられた初代の打狗駅(1920年、高雄駅に改称)も、港湾に隣接する位置に設けられていましたが、駅周辺地域の人口増加により、市街地のさらなる発展に制約が生じるようになりました。そこで、高雄駅は1941年に現在地に移転し、既存の高雄駅は高雄港駅に改称のうえ、港湾に接続する路線は高雄臨港線として残されます。1975年、この臨港線の沿線に高雄機廠が移転し、縦貫線・屏東線とは臨港線を通じて接続するようになりました。しかし、台湾における輸送モードの変化や、高雄港の発展により、臨港線を利用する貨物列車は減少し、同線は地下化の対象から外れ、廃線跡は路面電車(ライトレール)の軌道敷地として利用されることが決まります。高雄市街の人口増加も進む中で、市内に位置するようになった高雄機廠は、再度移転の必要が生じます。2021年、高雄機廠は現在の潮州鎮に移転し、2022年には名称も潮州機廠に改称されます。現在、台湾南部最大の車両基地・鉄道工場として、台鉄を支えています。
新しい鉄道の街の鉄道園区
現在の潮州鉄道車両基地・潮州機廠は、かつて高雄にあった鉄道工場の系譜を引いています。日本では、大宮が「鉄道の街」として、鉄道工場と鉄道博物館を擁していますが、潮州もこの新しい車両基地・工場のとなりに鉄道文化園区を設け、地域の歴史や鉄道のシステムについて学ぶ場所となっています。園内には、主に屋外に、特急型電車(EMU1200型)・特急型ディーゼル車(DR2800型)、客車、貨車、事業用車両などが20両ほど展示されている他、展示館と宿泊施設も設けられています。広い園内の中央部には池があり、その周囲を園内遊覧用の車両が走っています。また、鉄道をテーマとする、屋外立体彫刻なども設けられているほか、ヤギやミニブタなどが飼育されており、動物とのふれあいも楽しめます。
園内には様々な車両の展示も(松葉隼撮影)
さらに学びを深めよう
- 【事前学習】台湾南部における鉄道の発展について調べてみましょう。
- 【現地体験学習】潮州鉄道文化園区に展示してある車両を観察してみましょう。
- 【現地体験学習】【事後学習】台湾の鉄道と日本の鉄道の共通点と相違点を探してみましょう。
参考資料
竹田駅・池上一郎博士文庫については、片倉佳史『台湾に残る日本鉄道遺産』(交通新聞社新書、2012年)で紹介されています。同書では、台湾に残されている日本統治時代の鉄道関連の施設について豊富に紹介されています。台鉄に残された台湾観光局が発行している小冊子「台湾の鉄道」は、概説や見どころがコンパクトにまとまっています。また、台湾の客家については、田上智宜「第29章 客家-少数派漢人の言語と伝統文化」『台湾を知るための72章【第2版】』(明石書店、2022年)を読んでみましょう。また、田上智宜「「客人」から客家へ―エスニック・アイデンティティーの形成と変容―」(『日本台湾学会報』第9号、2007年)を読むと、さらに詳しく学ぶことができます。関連するスポットとして、台湾客家文化館があります。
