世界一長いタラシートはこんなに長い(山﨑直也撮影)
海洋をイメージさせる外観が楽しい(山﨑直也撮影)
鮮饌道海洋食品文化館
鮮饌道海洋食品文化館
定番おやつ「鱈魚香絲」の工場で水産加工品製造の歴史を知る
台湾には見学や体験のできる観光工場が数多くあります。大鵬湾国家風景区にほど近い鮮饌道海洋食品文化館は、台湾で人気のおやつ「鱈魚香絲(細切りタラシート)」など、水産加工品を製造する企業、政益食品が運営する観光工場です。鱈魚香絲はシート状に延ばした鱈のすり身を脱水・乾燥させて焼き、細長くカットしたもので、スーパー、コンビニで必ず目にする定番商品です。鮮饌道食品文化館では、水産加工品の製造工程、加工技術の発展の歴史を知るパネル展示を見学できるだけでなく、好みに成形した魚のすり身を機械で焼き、世界でただ1枚のタラシートをつくって食べる体験もできます。世界で最も長いタラシートを持って写真を撮るコーナーも人気です。
学びのポイント
台湾の練りもの
四方を海で囲まれた台湾は海の幸が豊かで、鮮饌道海洋食品文化館がある屏東県では、東港のクロマグロ(本マグロ)と桜海老が特に有名です。調理法、加工法が発達しているほか、日本統治時代を経て魚の練りものが日常の食に定着しており、コンビニでは1年を通じて「関東煮(おでん)」を買うことができます。豚の血をもち米で固めて成形した豬血糕やトウモロコシなど、日本のおでんにはない独特な具材もありますが、メインの具材は魚の練りものです。屋台料理の「黒輪」という練りものは、台湾語で発音すると、「おでん」に近い響きになります。また、同じく屋台料理の「甜不辣」は、台湾の「國語(標準中国語)」で発音すると、「ティエンプーラー」と言います。甜不辣は日本のさつま揚げのような食べ物で、日本でも一部の地域で魚のすり身揚げを「てんぷら」と呼ぶことがあり、共通点が感じられます。政益食品の主力商品である鱈魚香絲も魚のすり身を使ったお菓子で、子どものおやつや大人のおつまみとして人気があります。
水産加工品製造の歴史を知る
鮮饌道海洋食品文化館では、加工商品に使われる魚の種類と主な用途、1970年代の漁労と多くが人の手によった魚のすり身の製造工程、大型機械の導入で大幅に自動化された現在の製造工程が文章と写真で説明され、水産加工品製造の昔と今を知ることができます。説明文は中国語ですが、各コーナーのタイトルは英語が併記されており、「すり身」は“Surimi”と表現されています。「刺身」という日本語がそのまま“Sashimi”という英語の語彙になったように、「すり身」も“Surimi”として世界的な広がりを見せているようです。1960年代から80年代まですり身製造に使われた機械の実物を見ることができるほか、すり身を延ばして自分好みに成形し、専用の機械で焼き上げてオリジナルのタラシートをつくる体験コーナーもあります。
筆者がつくった魚形の鱈魚香絲(山﨑直也撮影)
「八八水害」からの再生
2009年8月に発生した台風8号(モーラコット台風)は、台湾中南部に甚大な水害をもたらしました。このときの災害は「八八水害」と呼ばれ、政益食品の工場も大雨による土砂に埋もれ、全面的に水没するという危機的状況に陥りました。しかし、「信念さえあれば、礎石はまだ残っている」という強い思いで失意の中から再生を果たし、受託生産(OEM)から健康的で安心安全な自社ブランド品を生産する企業へと成長を遂げます。鮮饌道海洋食品文化館では壁の一面を使って、水浸しになった商品在庫や機械類の写真を展示し、工場を直撃した水害の激しさを今に伝えています。政益食品が展開した最初の自社ブランドの名称は「台海」でしたが、中国への輸出を円滑にするために「佳味益品」と改め、今は観光工場の名称にもある「鮮饌道(Seadawn)」というブランド名となっています。
さらに学びを深めよう
- 【事前学習】日本と世界の水産加工品、魚の練りものの種類や歴史を調べてみましょう。
- 【事前学習】台湾は不幸にも1999年の921大地震、2009年の八八水害など、大規模な自然災害に繰り返し見舞われてきました。台湾における自然災害の歴史と防災対策の発展について調べてみましょう。
- 【現地体験学習】体験コーナーで自分だけのタラシートをつくってみましょう。
参考資料
食品・流通産業の専門紙『日本食糧新聞』は、2018年の特集連載「台湾 伝統と革新をつなぐ製造現場」の第2回で、「南台湾ならではの発展」の事例として政益食品を取り上げています。日本の食品企業紀文は、『紀文アカデミー』というサイトを開設し、おでんと練りものの歴史と広がりを解説しています。ベトナム、マレーシア、タイ、韓国とともに台湾を紹介しています(「アジアの練りもの 台湾編」)。八八水害の甚大な被害と対策については、農林水産省農林水産政策研究所が2012年にまとめた『平成23年度カントリーレポート:米国,カナダ,ロシア及び大規模災害対策(チェルノブイリ,ハリケーン・カトリーナ,台湾・大規模水害)』所載の樋口倫生「第7章 台湾の八八水害対策」、台湾の防災対策については、佐々木孝子「台湾の防災事情」(『交流』No. 972、19-24頁)が参考になります。
