宮岡真央子撮影

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阿里山逐鹿部落veoveoana

阿里山逐鹿部落veoveoana

先住民族ツォウの文化に触れ、災害復興の道を考える

2009年8月に台湾を襲ったモーラコット台風は、台湾中南部に記録的豪雨と未曾有の土砂災害を引き起こし、甚大な被害をもたらしました。とりわけ山地の先住民の村落に被害が集中し、家や生活基盤を失った人も少なくありませんでした。阿里山逐鹿部落veoveoanaは、この台風で被災した先住民族であるツォウ(Tsou / Cou、鄒族)の人びとが、故郷の阿里山の村から移り住み、文化観光を営む新しいコミュニティです。敷地内の鄒族逐鹿文創園区では、復元されたツォウ民族の伝統的家屋、舞踊団によるステージ、伝統的弓矢などの文化を体験できます。個体が減少する台湾固有種のタイワンジカ(梅花鹿)を飼育し、繁殖させる梅花鹿園区では、餌やり体験が可能です。地元の生産者による工芸品や農産物の出店もあります。

学びのポイント

モーラコット台風とその災害

モーラコット台風は、過去半世紀で台湾に最大の被害をもたらした台風です。2009年8月6日から10日までの5日間に、多くの地域で台湾の年平均降水量を超える降雨を記録しました。とりわけ嘉義県阿里山郷の降水量は、台湾の複数の観測地点のなかでも最多の2,854mmでした。このような集中豪雨が各地で山崩れや土石流など未曾有の災害を引き起こしたのです。政府統計によれば、死者・行方不明者数は699人、重傷者4人、全壊家屋1,766戸、浸水などの被災は14万6,739世帯・51万668人、被害総額は1998.3億元(約7,045億円)に及びました。8月8日を中心に集中豪雨が起きたため、この災害を「八八水害」とも呼びます。

被災者の移住と復興

八八水害で生活の場を失った被災者は、当初プレハブ式の仮設住宅に入居し、やがて政府が建設した恒久住宅地へと移転しました。台湾内外からの義援金をもとに国際NGOに委託して建設されたものです。合計24箇所の恒久住宅地は、山間部に位置する先住民の古くからの村の近くに建設された例もあれば、車で1〜2時間の距離がある平野部に建設された例もあります。阿里山逐鹿部落veoveoanaは後者の一つです。平地に誕生した恒久住宅地の場合、それまで山間部で農業を営んできた人たちの生活の糧の確保が問題です。そこで阿里山逐鹿部落veoveoanaでは、政府観光局などの支援も得つつ、住民たちによる文化観光を柱としたコミュニティづくりを推進してきました。

阿里山逐鹿部落提供

なぜ「鹿」?

ツォウ民族の一部には、かつて彼らが嘉義や台南の平野部に住んでいたという伝承があります。そして、阿里山に至る山のふもとの断崖に、タイワンジカ(ツォウ語でveoveo)を追い込んで猟をしたとも伝えられます。その猟場とされるのが、ツォウ民族の新たなコミュニティが誕生した土地なのです。中国語の「阿里山逐鹿部落」(「部落」は先住民の自律的村落の意)、ツォウ語の「ヴェオヴェオアナveoveoana」(「タイワンジカがたくさんいる場所」の意)という名称には、この土地に鹿を逐ってきた祖先とのつながりと、ここが阿里山のツォウ民族の村の1つであることが表現されています。タイワンジカを飼育し、繁殖させる「梅花鹿園区」も、この伝承にちなむものです。

阿里山逐鹿部落提供

さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】SNET台湾YouTubeチャンネル「おうちで楽しもう台湾の博物館」の「第8回 順益台湾原住民博物館」が入ります。を見て、台湾の先住民族の文化や歴史について調べてみましょう。
  • 【現地体験学習】阿里山逐鹿部落veoveoanaで紹介されるツォウ民族の文化について、その特徴を探ってみましょう。また、可能であれば、現地の方から被災の経験や、移住前と移住後の暮らしの違い、移住後の子どもたちへの教育などについて、話を聞いてみましょう。
  • リ【事後学習】 災害復興のあり方について、とくに被災者の生活や文化との関係を中心に、日本の具体例を調べ、阿里山逐鹿部落veoveoanaの例と比較しながら、考えてみましょう。
参考資料
台湾の先住民の歴史や文化については、赤松美和子・若松大祐編『台湾を知るための72章【第2版】』(明石書店、2022年)の第1章「歴史地理・自然・先史」、第26章「エスニック・グループ」、第27章「原住民/先住民」などで概要を知ることができます。また、先住民の各民族文化の特徴などについては、台北駐日経済文化代表処ウェブサイトの「台湾の原住民族文化」が参考になります。SNET台湾のスポット紹介「永齢農場」にも八八水害に関係する説明があります。
八八水害による先住民の被災状況と復興についてさらに知識を深めたい方は、『台湾原住民研究』14-20号に掲載された以下の論文や報告が参考になります。簡文敏「小林平埔族文化と災害後の再建」、小川正恭ほか「台湾原住民族と八八水害―「びんろう」による被災情報交換と資料」(14号、2010年)、清水純「再出発する二つの小林村:八八水害からの復興」(15号、2011年)、小川正恭ほか「台湾原住民族と八八水害(続)」(16号、2012年)、宮岡真央子「阿里山ツォウ被災者の恒久住宅地」(17号、2013年)、山西弘朗「八八水害復興における恒久住宅政策と原住民村落」、原英子「小林村大満舞踊団による岩手県山田町での被災地公演」(18号、2014年)、林清財「研究者と災害支援:「台湾平埔原住民族文化学会」の誕生」(19号、2015年)、宮岡真央子「八八水害、最後の恒久住宅地:来吉トエウアナ(得恩亜納)コミュニティの誕生」(20号、2016年)。

(宮岡真央子)

ウェブサイト
公式 https://www.facebook.com/poftongaveoveo/

(中国語)

所在地
嘉義県番路郷触口村18鄰梅花一路1号


特記事項
団体で訪れる場合、事前予約が必要です。