かつての県職員宿舎をリノベーションした宜蘭原創館の建物(家永真幸氏提供)
蘭陽原創館
蘭陽原創館
宜蘭で最初の先住民文化産業パーク
蘭陽原創館は宜蘭県宜蘭市の中心部に位置する、台湾先住民族の文化をテーマとした土産物店や飲食店が集まる複合施設です。各店舗の建物は1960年代に宜蘭県政府の職員宿舎として建てられた建築群で、黒い瓦屋根の平屋が並びます。さらに歴史をさかのぼると、日本統治時代に宜蘭小学校があった場所で、宜蘭の教育の近代化を象徴する場所でもあります。同敷地内には、旧宜蘭県議会の建物を保存するために創設された宜蘭人故事館、宜蘭出身の写真家、阮義忠の作品や撮影道具を展示する阮義忠故事館もあり、それら3つの施設をあわせて紹介します。
学びのポイント
蘭陽原創館
宜蘭県政府の旧職員宿舎群が2016年に歴史建築に指定されたのち、2019年に県政府がその保存と活用に着手しました。県内の先住民族の産業活性化をテーマとした施設とすることが決められ、2021年に商業の振興と文化の紹介・伝承を兼ねた施設としてオープンしました。原創館の「創」は、近年台湾で注目されている「文創」という言葉に由来します。文創は文化創意産業の略で、台湾的な要素を活用して現代的で芸術的なモノを創り出すこと。つまり、ここで言う「原創」とは、先住民族(台湾では原住民族と言います)の文創です。軒を連ねる土産物屋や飲食店では、先住民族の伝統工芸品が購入できるほか、手作り体験もできます。コースターやバッグなど、現代的にアレンジされた洒落たデザインの品々を見てついつい買いたくなってしまう人も多いでしょう。ここでは、歴史的建造物の保存、先住民族文化の振興、経済的に持続可能な運営を同時に実現しようとする行政の取り組みを体感できます。
宜蘭人故事館
第二次世界大戦後、日本に代わって台湾の統治者となった中華民国政府は、1947年施行の憲法で地方自治の実施を定めました。宜蘭では1951年に県議会が成立、1959年に旧議会の建物(現・宜蘭人故事館)が落成します。2001年に議会が移転し、翌年、旧議会の建物が歴史建築に指定されました。宜蘭人故事館は、その保存と活用のため、2017年にオープンしました。建物内には宜蘭の伝統工芸品を中心とする小規模な常設展示のほか、芸術・文化活動や子どものイベントなどに使える部屋があります。また、宜蘭県議会の歴史を伝えるパネル展示もあります。
阮義忠台湾故事館
阮義忠台湾故事館は、宜蘭県宜蘭市が旧県政府職員宿舎エリアの環境美化政策を進める際、地元出身の著名な写真家である阮義忠(1950-)の協力を得て2018年に誕生した展示施設です。2階建ての建物には、阮義忠の作品やカメラなどの撮影道具が展示され、さまざまなアーティストの展覧会が開かれてきました。【写真を入れる】2024年7月には、1970〜80年代の台北庶民の生活を活写した阮義忠の作品展が開催され、当時の雰囲気が生々しく感じられました。1980年撮影の作品「中正紀念堂」は、建造中の蔣介石の巨大な銅像の胸元に梯子がかけられ、トランシーバー片手にそこに腰掛けている作業員の姿が印象的です。
地元出身の写真家 阮義忠氏の作品を展示している(家永真幸氏提供)
さらに学びを深めよう
- 【事前学習】台湾の映画やドラマなどを見て、1950-60年代の台湾社会の雰囲気がどのようなものだったのかを調べてみましょう。
- 【現地学習】現地を訪れて、歴史的な建造物の保存・活用のためにどのような工夫がなされているかを体感しましょう。
- 【事後学習】現地で訪れた建物が使用されていた時代、保存されることになった時代は、それぞれどのような特徴があったのか調べてみましょう。
参考資料
宜蘭県では、蘭陽原創館を含む様々なテーマの博物館で博物ファミリーを構成しています。宜蘭博物館ファミリーサイトで、他にどのような博物館があるか見てみましょう。阮義忠台湾故事館で作品が紹介されている写真家の阮義忠については、鄧慧純著、久保恵子訳「帰郷への道『阮義忠の台湾故事館』」(『Taiwan Panorama』、2019年2月)という日本語の記事があります。文創については、上水流久彦「歴史を結ぶ近代建築、歴史を融合させる『文創』」『臺灣書旅~台湾を知るためのブックガイド』(台北駐日経済文化代表処台湾文化センター、2022年、34-35頁)、上水流久彦編『大日本帝国期の建築物が語る近代史 過去・現在・未来』(勉誠出版、2022年)で詳しく知ることができます。
- ウェブサイト
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公式https://www.yilanstory.com.tw/
(中国語)
- 所在地
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宜蘭県宜蘭市中山路2段430巷1号