永康街の街並み 松葉隼提供

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永康街

永康街

クールな美食の街に歴史あり

台北市の南西部に位置する永康街は、美食とショッピングの街として知られています。永康公園とその周辺を中心に、隣接する金華街や麗水街、信義路も含めて永康街エリアとして多くの観光客で賑わっています。このエリアは、小籠包で有名な鼎泰豊(ディンタイフォン)の創業の地として知られていますが、日本統治時代から近年まで、近隣の教育機関や官公庁、軍隊で働く職員やその家族たちが多く暮らす住宅地でした。彼らが生み出した小さな料理店や屋台の料理が評判を呼び、やがて美食の街として多くの人が集うようになりました。2012年には台北MRTの東門駅が開業し、世界中から観光客を集めるのに伴って、より多様な美食やショッピングが楽しめるエリアへと進化を遂げました。

学びのポイント

世界で最もクールな街のひとつ

2022年、イギリスの雑誌『Time Out』が選んだ世界で最もクールなストリート33に永康街がランクインしました。日本の旅行ガイドや雑誌でも必ずと言っていいほど取り上げられ、“台北の渋谷、原宿、代官山”などとして、若者の流行文化の発信地とされています。台北市中心部のやや南に位置する永康街は、永康公園を中心として、すぐ東側に大安森林公園、南側に台湾師範大学、西側に中正紀念堂と、台北を代表する観光スポットへのアクセスも便利です。また永康街は、台北、そして台湾を代表する美食の街でもあります。1990年代までは台北のありふれた住宅街に過ぎなかった永康街が世界で最もクールなストリートのひとつに華麗な変身を遂げた背景には、日本統治時代から現代へと至る台湾の歴史が深く関係しています。

永康公園のマスコット 松葉隼提供

学校と官舎の街

永康街とは、永康街を中心としつつ、北は信義路、南は金華街あたりまでを含む一帯を指しています。このエリアのすぐ南には現在台湾師範大学があり、そこで学ぶ外国人留学生の姿が永康街の国際色と多様性を際立たせています。今から150年ほど前、現在の台湾師範大学周辺は、一面の田畑でした。しかし、台北高等学校や台北帝国大学が設置されると、両校に近いこのエリアには教員や官僚が住む官舎街が徐々に形成され、大規模な公園の建設も予定されていました。日本の敗戦後、このエリアは政府や軍、教育機関に勤める人々が入れ替わるように居住し、住宅地として発展を続けます。1960年代には付近に淡江大学、政治大学のキャンパスが進出、近代的なアパートの建設も進み、人口流入がさらに続きます。こうした人々の胃袋を満たしたのが、様々な屋台料理だったのです。

文化の香りと美食が同居する街

台湾には歴史的に、福建省や広東省を中心とした中国大陸各地の食文化が移入し、先住民や日本の食文化に加え、近年では東南アジア各国の料理がさらに食文化に厚みをもたらしています。永康街は小籠包で知られる鼎泰豊の創業の地であり、上海や蘇州など、江浙料理の名店が多いのですが、その背景にそれらの地域から移住した人が多かったことがあります。一方で、この地域には周辺の学校や官公庁に通う人々も多く、服飾やアンティーク、書画を取り扱う店が徐々に増え、文化的で洗練された雰囲気を醸成していきました。1990年代から周辺エリアの再開発が進み、2010年代には近くにMRTの駅が設置され、永康街はますます注目を集めることとなりました。かつて地域の人々を癒やした数々の屋台料理は「美食」としてガイドブックに取り上げられるようになりました。その裏には台湾と台北が辿ったユニークな歴史があるのです。

永康街の鼎泰豊 信義店 松葉隼提供

さらに学びを深めよう
  • 1.【事前学習】【事後学習】行列している屋台を探し、食べてみましょう。
  • 2.【現地体験学習】永康街やその周辺地域を歩いてみましょう。どのような料理店やお店が広がっているでしょうか。
参考資料
永康街については、多くのガイドブックなどで紹介されています。また、神田桂一『台湾対抗文化紀行』(晶文社、2021年)では、その成立背景やこの地で育まれた文化について紹介しています。台湾の食文化については、赤松美和子・若松大祐編著『台湾を知るための72章【第2版】』の第51章「飲食文化 台湾美食の影に歴史あり」のなかで論じられています。台湾の小籠包については、焦桐著、川浩二訳『味の台湾』(みすず書房、2021年)にエッセイが掲載されているほか、専門書ですが岩間一弘『中国料理の世界史:美食のナショナリズムをこえて』(慶應義塾大学出版会、2021年)で詳しく論じられています。台湾料理については、(みんなの修学旅行ナビ「大稲埕台湾料理研習所」 、周辺エリアについては 「大安森林公園」も併せてごらんください。

(松葉隼)

公式ウェブサイト
https://www.travel.taipei/ja/attraction/details/1710(台北市政府観光伝播局)
所在地
台北市大安区永康街