台北市立美術館提供

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台北市立美術館

台北市立美術館

台湾の過去と現在を映し出す芸術作品の宝庫

台北市立美術館(通称・北美館)は、MRT淡水線・圓山駅1番出口を出てすぐの花博公園敷地内にあり、地階から3階までおよそ1万㎡という広大な展示室を有しています。1983年の開館以来、台湾の近現代を代表する作品の収集と修復、及び普及活動に努めてきました。 また、台北ビエンナーレの開催やヴェネチア・ビエンナーレへの参加など、芸術における「台湾のいま」を国内外に発信する重要な拠点にもなっています。さらに、毎年旧正月前後にわたって行われる台北美術賞展では、台湾の若手アーティストに活躍の場を提供しています。一方、子供のためのアート教育にも熱心に取り組んでおり、この美術館が地域コミュニティのなかに溶け込んでいる様子もうかがえます。

学びのポイント

台湾美術史の再構築を目指して

台湾で初めて、台湾の近現代美術をあつかう施設として誕生した台北市立美術館のコレクションは、開館から現在に至るまでの間に5000点以上になりました。北美館では、2000年末から収蔵作品の点検や調査・研究に力を入れており、その成果を収蔵研究展として断続的に公開しています。
戦後の台湾では、政治的な理由により、日本統治時代に活躍した作家やその作品を公の場で評価できない状況が続き、1980年代後半になってようやく本格的な研究がスタートしました。そのため、多くの作品が散逸状態にありましたが、近年著名な作家の優れた近代作品の発見が相次ぎ、台湾社会を驚かせています。そうした状況のなかで、北美館はきわめて初期の段階から台湾美術史の再構築という課題に取り組み続けてきたと言えます。

台湾に残る「日本」

2015年の「台湾製造 • 製造台湾展」では、日本の植民統治を経て国民党政権統治へと移り変わる激動の時代(1895-1947)に、台湾で活動した芸術家たちの作品を展示しました。興味深いのは、展示作家の選定では、台湾出身であることよりも、長い時間をこの土地で過ごしたかどうかが重要な基準であり、台湾に長く暮らした日本人、あるいは台湾で生まれ育った日本人の作品も含まれていたことです。彼らは主に、戦前日本の植民地であった台湾に職を求めてやってきた者やその家族であり、どの作品からも台湾への真摯なまなざしが見いだせます。彼らは台湾美術界では名が知られているものの、現在、日本ではほとんど無名の画家たちです。なぜこのような違いが生じるのでしょうか。彼らが台湾で意欲的に創作した作品の数々は、日本に暮らす私たちの立ち位置をいまいちどふりかえる必要性を訴えかけます。

芸術で台湾を知る

近代という時代を台湾で過ごした芸術家たちは、油彩、水墨、膠彩、水彩、彫刻、写真、版画といったあらゆる表現手法を用いて、時代の要請や社会の変化に敏感に反応しながら、台湾という土地や台湾に生きる自分自身を表現しようと試みました。芸術作品の凄みは、100年前の作家が作品にこめた思いを、筆致や造形から当時のまま感じ取ることができる点にあります。ぜひ実際にその目で見て台湾の近代美術のエネルギーや表現の多様性を実感してください。
ところで、近代の芸術家たちが直面した「台湾とは何か」「台湾に生きる自分とは何か」といった根源的な問いは、現代における台湾のアーティストにも連綿と受け継がれているようです(台湾の現代アートについては、台北当代芸術館(MOCA) (栖来ひかり)もご覧ください)。北美館の展示内容は、たとえ言葉はわからなくても、芸術の力を借りて台湾の歩んできた歴史と現在地を知る、つまり私たちが「台湾」を知る手がかりとなりえるはずです。
さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】訪れる日程に開催中の展示内容をチェックし、展覧会に出品予定の作家やアーティストの情報を可能な限り集めましょう。展覧会のテーマや問題設定の把握にも努めましょう。
  • 【事前学習】【事後学習】実際の展示をみて感じたことを話し合ってみましょう。作家が鑑賞する側に訴えかけたかったことは何かを考えてみましょう。
  • 【事後学習】日本の美術館に行き、台湾と日本の近現代美術の相違点や共通点について考えたり、話し合ったりしてみましょう。
参考資料
台湾の近現代美術についてより詳しく知りたいなら、『台湾を知るための60章』(明石書店、2016年)の第39章美術(呉孟晋)を読んでみましょう。台北市立美術館のコレクションを知るなら、日本では一部の図書館でしか閲覧できないものの、林育淳編(岩切みおほか訳)『収蔵作品百選台北市立美術館コレクション精選』(台北市立美術館、2006年)は良書です。やや専門的な論考ですが、鈴木恵可「日本統治期の台湾人彫刻家・黄土水における近代芸術と植民地台湾 : 台湾原住民像から日本人肖像彫刻まで」『近代画説』(2013年12月)は、台湾で初めての近代彫刻家・黄土水について書いています。
近代日本および戦前日本の植民地・占領地であった朝鮮・台湾・満洲における美術活動を作品紹介とともに知りたいなら、『官展にみる近代美術』(福岡アジア美術館、2014年)もおすすめです。東京国立近代美術館を始めとするアートライブラリーや福岡アジア美術館のアートカフェにも台湾の展覧会図録がおいてあるので、興味があれば覗いてみるのもよいでしょう。
台湾の現代アートに関しては、栖来ひかり「SERIES / 台湾現代美術のいま」『ウェブ版美術手帖』(2020年7-9月) 、栖来ひかり「断絶された記憶の闇に光を当て傷ついた社会を「修復」する台湾美術」『美術手帖』(2022年7月)等を読んでみましょう。

(福田栞)

ウェブサイト
公式 https://www.tfam.museum/

(中国語・英語)


台北市政府観光伝播局 https://www.travel.taipei/ja/attraction/details/747
所在地
台北市中山区中山北路三段181号