迪化街一段の歴史的建造物群(著者撮影)

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迪化街一段 批發商圈

迪化街一段 問屋街

近代台北の栄枯盛衰と共に

迪化街一段は、台北市大同区に位置する歴史ある問屋街「迪化街」の中心部です。北は民権西路、南は南京西路との交差点までの直線距離1km程度の範囲であり、台湾の中でも代表的な歴史的建造物群です。迪化街の発展は、清の時代(1850年頃)にさかのぼります。もともとは台北城の貿易拠点である河港として栄え、日本統治時代を経て、台北市旧市街とともに発展してきました。布、干物、穀物、お茶、漢方薬、駄菓子などの中国語で言う「南北貨」を扱う問屋が多く、業務用だけでなく小売も手がけ、旧正月用品の買い出しスポットとして一般市民にも重宝されています。歴史的な街並みと相まって、伝統的な問屋が林立する場所であり、昔ながらの台北の雰囲気を感じられるスポットとして、海外観光客からも人気を集めています。

学びのポイント

「容積移転」による街並みの一体的保全

迪化街一段沿道の整然とした街並みを歴史的建造物群として保全するに当たっては、「容積移転」という手法が活用されています。迪化街一段を中心とする地域を歴史的街区として指定することにより開発が規制されています。しかし、台北市政府は地権者に既存の歴史的建造物をきちんと修復する代わりに、その「開発権」を他の地域に移転することを認めるというインセンティブを与えています。このような方法を「容積移転」といいます。また、迪化街一段全体の街並み景観を保つため、歴史的建造物指定のない既存建物の外観を街並みに調和した様式に修景・リノベーションする場合でも、容積移転の適用が可能です。

文創産業のゆりかご

迪化街一段沿道の歴史的建造物群は現在、台湾における「文創産業」のインキュベーター(incubator)としても機能しています。文創産業とは中国語の「文化創造産業」(Cultural and Creative industry)の略称で、修復・修景された迪化街の歴史的建造物または一般建物は、そのレトロな雰囲気やこぢんまりとした内部空間が、アート制作、デザイン雑貨、アパレル、インテリアなどの文創産業と相性が良いとされます。台北市政府が修復した建物を都市再生前進基地(Urban Regeneration Station, URS)として創業間もない小規模な文創産業のベンチャー企業に低廉な家賃で提供するなど、積極的に活用することにより、迪化街一段は今、台湾における文創産業の重要な発信地になりつつあります。

新旧産業の交代

歴史ある問屋街として名高い迪化街一段ですが、時代の変化に伴う既存の問屋の廃業に加え、文創産業や新規店舗の急激な増加も相まって、産業の新陳代謝がどんどん進んでいます。現実的に、伝統的な問屋より、観光客向けにも人気が出やすい文創産業の方が地域経済への貢献が大きいという見方もありますが、迪化街一段から問屋が完全に消え、街並みだけが残ってしまった場合、果たしてそれが迪化街一段のあるべき姿といえるのかとの懸念もあります。今後、迪化街一段がどのように変化していくか、大いに注目されます。

伝統的な漢方薬問屋(著者撮影)

修復した歴史的建造物を活用した文創産業の店舗(著者撮影)

さらに学びを深めよう
  • 【現地体験学習】迪化街一段には様々な歴史的建造物と、様々な種類の店舗があります。どれぐらいの種類があるか、確かめてみましょう。
  • 【事前学習】【事後学習】「容積移転」という手法は、日本では東京駅の保全・修復などにも使われています。このような手法にはどのような利点と課題があるか考えてみましょう。
  • 【事前学習】【事後学習】迪化街一段の建物は、日本で「うなぎの寝床」と呼ばれる建物のように奥行きのある細長い形です。表から奥まで、どのような空間で構成されているか考えてみましょう。
参考資料
迪化街の容積移転制度の導入については、蕭閎偉・城所哲夫・瀬田史彦 (2017)「歴史的街区における容積移転制度の導入の意義と課題の解明」『日本建築学会計画系論文集』82(742)、蕭閎偉 (2019)「台北市迪化街の歴史的保全地域における容積移転の運用実態とそれに伴う地域の変容に関する研究」『都市計画論文集』54巻3号に詳しく書かれています。

(蕭耕偉郎)

ウェブサイト
交通部観光局 https://jp.taiwan.net.tw/m1.aspx?sNo=0003090&id=418

(中国語)

所在地
台北市大同区迪化街一段