上水流久彦氏提供
西山前李氏家廟
西山前李氏家廟
東南中国の伝統文化の一端を学べる
祖先を祀る建物を「家廟(かびょう)」といいます。金門島内には多くの家廟があり、古蹟となっています。西山前李氏家廟は、金門島東北部の「西山前」という集落にある、明代に福建の漳州からから移り住んだ人の子孫の李氏一族が建てた家廟です。李氏一族は文官、武官を輩出した名家で、シンガポールでのビジネスで成功した人物が故郷に戻り、1906年に家廟を建立しました。それは、一族の心のよりどころとなる中心的建物です。正面は、朱色、金色、青色が映える豪華なデザインで、一族の繁栄の歴史を偲ばせます。また、東南中国の伝統的な様式美を見ることができます。1999年に金門県の古蹟に指定されました。
学びのポイント
宗族がまとまって住んだ村が多い金門
宗族とは、共通の祖先を持つ親族の集団です。専門用語では、ある一族が住んでいる村を単姓村といいます。その村の住人の多くが一つの姓を持つためです。単姓村は東南中国に特徴的で、金門にもたくさんありました(現在も一つの姓が多い地域もあります)。単姓村と言うものの、例えば、そこで商いをする者は違う姓である場合が多く、また、結婚によって村に来た女性は実家の姓のままですから(漢人社会では結婚しても夫婦が同じ姓になることはありません)、全員が同じ姓ということではありません。
中国の伝統文化が根付く島
金門のある人から、「金門は中国文化が一番残っている場所です。中国本土では共産党のもと多くの伝統文化が失われ、台湾には欧米の文化が多く入ってきているからです」と、フィールドワーク中に言われました。その真偽は別にして、この言葉は、金門の人々が金門に残る中国の伝統文化に誇りを持っている証左だと思いました。金門は、唐代から清の時代まで中国の東南方面の海上防衛の要所であり、ここでは清のみならず、宋や明の時代の古蹟も見ることができます。また、教育に熱心な島で、科挙の合格者も出しました。家廟は、その歴史を示すものでもあります。
さらに学びを深めよう
- 【事前学習】【事後学習】[事前or事後学習]結婚した時や子どもが生まれた時の姓のあり方やつけ方についても、台湾と日本と比較してみましょう。
- 【事前学習】【事後学習】[事前or事後学習]台湾には同姓団体(宗親会)というものがあります。どのような団体で、どのような役割を持っているでしょうか。
- 【事前学習】【事後学習】[事前or事後学習]金門の古蹟のなかで一番古いものはいつの時代のものでしょうか?
参考資料
金門の人たちのアイデンティティについては、上水流久彦「中華民国の台湾化にみる金門の位置づけに関する一考察」『アジア社会文化研究』18号が参考になります。漢人の社会関係については、上水流久彦『台湾漢民族のネットワーク構築の原理-台湾の都市人類学的研究-』(渓水社、2005年)を読んでみましょう。もっと詳しく知りたい場合は、費孝通著(西澤治彦訳)『郷土中国』(風響社、2019年)を参考にしてみてください。また、宗族や同姓団体については、古いですが、末成道男編『文化人類学5 特集:漢族研究の最前線―台湾・香港』(アカデミア出版会、1988年)で紹介されています。
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