素食

大岡直子

素食とは日本語で言うところの「菜食主義」、「ベジタリアン」、「ビーガン」、「精進料理」に近く、一般的に動物性食品を摂取しない食習慣を指す。元々は、漢人の渡台に伴って広がった中国仏教の戒律に基づいた食事行為である。台湾では仏教や道教の宗教的戒律に従う人の多くが、肉だけでなく、五葷(ごくん)と呼ばれる香味野菜(ネギ・タマネギ・ニンニク・ニラ・ラッキョウなど)を口にしない。

現在の台湾での素食の実践者は、人口の1割程度といわれている。食品工業発展研究所の調査(2017年)によれば、全ての動物性食品及び五葷を禁忌とする「全素」は1.2%、基本的に「全素」だが卵は食べられる「蛋素」(「蛋」は卵の意味)は4.2%、基本的に「全素」だが、動物由来の成分が混入してもあまり気にかけない人々が1.0%、特定の日時にだけ素食を食べる人々が7.4%となっている。

現在の素食は宗教的戒律に基づく食事行為に限定されるものではない。1990年代以降、健康志向、環境保護や持続可能な社会を重視する価値観、また非人道的な畜産物の飼育・屠畜に反対する現代的な問題意識から菜食を選択する人々が出てきた。こうしたライフスタイルの多様化は、伝統的な素食とは異なる「蔬食」(そしょく:五葷を禁忌としない野菜料理)の発展につながった。大手食品企業も多様な素食(蔬食)製品を製造しており、コンビニエンスストアにも素食(蔬食)コーナーがある。このように、素食は非素食者にとっても日常的な食生活の一部となっている。

蔬食レストラン小小樹食の「大根餅の青唐辛子ソース」(吳奈奈子撮影)

養心茶楼 外国人観光客や僧侶で賑わう(張吏爵撮影)

もっと知りたい方のために

・黒羽夏彦「多様化する台湾の素食文化」『交流』No.980、2022年、pp.15―20
・翁佳音・曹銘宗(川浩二訳)『[図説]食から見る台湾史 料理、食材から調味料まで』原書房、2025年