上水流久彦撮影

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台北市中山堂

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中山堂

台湾政治の歴史と日台関係を語る国定古蹟の荘厳な建物

日本統治期の1936年に台北公会堂として完成しました。清朝時代には、台湾の行政の中心地であり、日本統治期当初は台湾総督府もこの地にありました。1945年10月25日に日本と中華民国との間での降伏文書調印式がここで行われました。第二次世界大戦後は、名前も台北中山堂と変わって、台湾省議会の所在地になるなど重要な政治的会議の場となりました。迎賓館としても使用されましたが、現在は、ホール、複数の展示場等のある文化活動の場になっています。レストランもあり、荘厳な雰囲気を楽しみながら飲食ができます。1992年に国家二級古蹟になり、2019年には国定古蹟に指定されました。広場には、抗日戦争勝利および台湾復帰を記念する石碑があります。目立たない色や光を反射しない外壁でつくられるなど空襲を受けない工夫がされています。

学びのポイント

中山堂の由来は?

中山は孫中山から来ています。孫中山は孫文の別称で、台湾ではこう呼ばれることが多いです。孫文は1866年に現在の広東省中山市で生まれました。1911-12年の辛亥革命の立役者であり、初代中華民国臨時大総統をつとめ、1925年に亡くなりました。1895年からは日本へ亡命もしています。台湾では、「国父」と称され、中華人民共和国でも近代化に貢献した人物と評価されています。台湾には、中山路など、「中山」がつく名称が多くありますが、それらは孫中山から来ています。

親日だから日本統治期の建築物を大切にしている?

台湾は、親日だから日本統治期の建築物を保存しているというのは本当でしょうか。台北中山堂の広場には、「抗日戦争勝利および台湾復帰を記念する石碑(抗日戦争勝利曁台湾光復紀念碑)」があります。また、日中戦争下の中国大陸での抗日運動に関わる展示会も行われていました。親日だけでは語れないのです。台北中山堂も、台北公会堂であったのは1936年から45年の9年間で、その後は台北中山堂として70年以上も活用されてきました。その建築物を日本のものとみなすのは、日本側の思い入れに過ぎないでしょう。

黒羽夏彦撮影

台湾省って何?

中国国民党と中国共産党との国共内戦の中で、大陸の各省を失い、台湾に移転した中華民 国政府の実効支配地域は、台湾省のほか、アモイに近い金門島など福建省の一部島嶼に限 られました。これにより、「中華民国」と「台湾省」がほとんど重なったにもかかわらず 、中国全土を代表する正統政府であることを主張するため、中華民国政府は、中央政府の 下に「省」という行政区分を維持しました。その後、行政の効率化などの観点から、1998 年に台湾省の行政機能は凍結され、元々台湾省の下にあった5の省轄市と16の県は、中央 政府が直接管轄することになりました。
さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】【事後学習】孫文はどのような人物だったかを調べてみましょう。
  • 【事前学習】【事後学習】日本統治期の建築物が戦後、どのように使われてきたかを調べてみましょう。
  • 【現地体験学習】中山堂は戦前戦後と重要な政治の場となってきましたので、内装には意匠が凝らされています。日本統治期には菊のモチーフが施されていた装飾は戦後は梅に変わりました。「日本」「中華」を感じさせるそれぞれのモチーフを建物の内外で探してみましょう。
参考資料
孫文の前半生については、フィクションを排して書いたとする歴史小説の 陳舜臣『孫文 』上・下(中公文庫・2006年)があります。日本や中華民国の統治を考えるヒントとして赤松美和子・若松大祐編『台湾を知るための60章』(明石書店、2016年)の第9章「日本 統治時代をどう捉えるか?」(黒羽夏彦)や、若林正丈『台湾』(ちくま新書、2001年)の第三章「「中華民国」がやって来た」があります。二つの時代を生きた王育徳の『昭和を生きた「台湾青年」』(草思社、2011年)も参考になります。台湾での建築物の保存をどう見るかについては、雑誌『K』0号(創刊号)のコラム上水流久彦「日本統治時代の建物の現在」を読んでみましょう。韓石泉『韓石泉回想録: 医師のみた台湾近現代史』(あるむ、2017年)第12章「第一期台湾省参議会議員として」は、この中山堂の歴史的現場で展開された出来事を詳細に記録しています。SNET台湾のYouTube番組「台湾修学旅行アカデミー 第6回 建築から知る台湾」(講師:上水流久彦)では、日本統治期に建てられた建築の見方につ紹介しています。合わせてご視聴ください。

(上水流久彦)

ウェブサイト
公式https://www.zsh.gov.taipei/ 台北旅遊網(台北市政府観光伝播局) https://www.travel.taipei/ja/attraction/details/827
所在地
台北市延平南路98号
特記事項
見学無料