(台湾の)言語状況(げんごじょうきょう)

吉田真悟

台湾は移民と外来政権による支配が繰り返された歴史を反映して、その言語状況も複雑である。最も古くから住む先住民は部族ごとに異なることばを持ち、それらのことばは系統としてはマレー語やハワイ語などと同じオーストロネシア語族に分類される。漢族の中では福建省南部(閩南(びんなん)地方)にルーツのある人が最も多く、彼らのことばが今日一般的に台湾語と呼ばれている。その他に、主に広東にルーツのある客家(はっか)人が話す客家語も存在する。

しかし台湾で「国語」とされたのは、これら土着の言語ではなかった。台湾における「国語」の登場は、日本の植民統治による。当時の国語は日本語であった。そのため日本統治時代に教育を受けた高齢世代の中には、いまだに流暢な日本語を操る人もいる。戦後は中国北方のことばを基にする標準中国語が国民党政府によってもたらされ、日本語に代わる国語としての教育が推し進められた結果、21世紀の現在ではほぼ全ての人々に普及するに至っている。

その一方で、戦後は「国語」以外の母語の使用が公的な場所では禁じられたため、人々の母語であった台湾語、客家語、原住民諸語等は継承が危ぶまれるようになった。民主化後はこれらの言語の保護・振興策が取られるようにもなっている。学校教育にこれらの言語を教える科目が新設されたこともその一環であり、近年は東南アジアを中心とする国々からの新しい移民である「新住民」の言語もそこに加わるなど、多言語主義的な政策が推し進められている。

もっと知りたい方のために

・林初梅・吉田真悟『台湾華語(世界の言語シリーズ18)』大阪大学出版会、2022年