旧竹田駅の木造駅舎(松葉隼撮影)
竹田驛園
竹田駅旧駅舎
「客家の郷」に建つ日本統治時代の木造駅舎と日本語文庫
屏東県竹田郷にある竹田駅旧駅舎は、日本統治時代の木造建築です。この駅舎は1938年に建てられた寄棟造りの瓦屋根を持ち、駅として利用されていた時代の空気をとどめています。駅舎だけでなく、浴場や倉庫など、駅の付帯施設も保存されています。駅の隣には、アジア最南端の日本語図書館とも呼ばれる池上一郎博士文庫があり、多くの日本語図書を所蔵しています。同館は、かつてこの地に赴任した日本人医師の池上一郎博士に由来します。日本語で教育を受けた「日本語世代」の憩いの場でもありましたが、現在では若い世代も訪れる場となっています。
学びのポイント
「客家」のふるさと、六堆
竹田旧駅舎がある屏東県竹田郷を含む一帯は「六堆」と呼ばれ、客家と呼ばれるエスニック・グループの人々が多い地域として知られています。客家は、漢族の集団の一つで、中国を移動しながら独自の言語や文化、習慣を維持してきたことで知られています。客家は、当時の清朝政府の意向もあって、福建省南部から台湾へと移民した福佬あるいは閩南と呼ばれる人々より遅れて台湾へやってきました。そのため客家は、現在の新竹や高雄の山沿いの地域や屏東に移り住みました。六堆とは、清朝時代に客家たちが郷土の防衛と反乱の鎮圧などのために結成した自衛組織であり、今日では台湾南部地域に居住する客家の人々が住む地域の通称となっています。竹田はそのうちの中堆と呼ばれる地域に所在します。
旧駅名は「頓物」
竹田駅は1919年、に阿緱(現:屏東)からの鉄道(屏東線)の延伸に際して開業しました。当初の駅名は頓物で、客家語で「物を貯めておく」という意味であり、駅周辺地域が河川を利用して物資を輸送するうえでの拠点、集散地となっていたことに由来します。また付近には糶糴(ちょうてき)という台湾屈指の珍しい地名がありますが、この地名は米の売買に由来し、この付近に米が集まり、商われていたことを示します。この頓物という地名が翌年に「竹田」に改名され、駅名も竹田と変わりました。この地域に田んぼが広がり、その境界として竹が植えられていたことから名付けられたといいます。鉄道が開業したことで、かつては河川を利用して運ばれた物資は、鉄道で運ばれるようになっていきました。現在、竹田駅は高架化されていますが、1938年に建てられた木造の旧駅舎が保存されています。取り壊される計画もあったようですが、ドラマの舞台となったことで駅を訪れる人が増え、地元自治体が引き取って保存することになりました。駅舎だけでなく、浴室や倉庫も保存されています。
池上一郎博士文庫
竹田駅のすぐ側には、かつて倉庫として利用されていた建物を活用した池上一郎博士文庫があります。池上一郎氏は、第二次世界大戦期間中、陸軍の軍医としてこの地域に派遣された人物で、軍人の治療だけでなく、地域住民にも医療を提供し、地域の人々から親しまれたといいます。終戦後、日本に戻ってからも台湾の人々に関心を持ち続け、留学生への支援などを行いました。この池上氏の寄贈した図書などを基礎として、劉耀祖氏の働きかけで2001年に現在の池上一郎博士文庫として整備されました。当時90歳だった池上氏はその開館を見届けて亡くなりましたが、現在も多くの日本語図書を収蔵し、「アジア最南端の日本語図書館」と呼ばれています。かつては、日本統治時代に日本語で教育を受けた「日本語世代」と呼ばれる人々が利用していましたが、彼らの多くが亡くなる中で、近隣大学で日本語を学ぶ学生たちの学びの場としても利用されるようになっています。
池上一郎博士文庫(松葉隼撮影)
さらに学びを深めよう
- 【事前学習】台湾南部における鉄道の発展について調べてみましょう。
- 【現地体験学習】竹田駅旧駅舎にはどのような特徴があるのか、確認してみましょう。
- 【事後学習】台湾に残る日本統治時代の木造駅舎について調べてみましょう。
参考資料
竹田駅・池上一郎博士文庫については、片倉佳史『台湾に残る日本鉄道遺産』(交通新聞社新書、2012年)で紹介されています。同書では、台湾に残されている日本統治時代の鉄道関連の施設について豊富に紹介されています。台鉄に残された台湾観光局が発行している小冊子「台湾の鉄道」は、概説や見どころがコンパクトにまとまっています。また、台湾の客家については、田上智宜「第29章 客家-少数派漢人の言語と伝統文化」『台湾を知るための72章【第2版】』(明石書店、2022年)を読んでみましょう。また、田上智宜「「客人」から客家へ―エスニック・アイデンティティーの形成と変容―」(『日本台湾学会報』第9号、2007年)を読むと、さらに詳しく学ぶことができます。関連するスポットとして、台湾客家文化館があります。
- 所在地
- 屏東県竹田郷履豊村豊明路 27之1号
- 特記事項
