総統制度の歴史

家永真幸

台湾の総統は、中華民国憲法によって定められた国家元首である。直接選挙によって選出され、4年に1度の総統選挙は大変盛り上がることで知られている。

中華民国憲法はかつて、中国全土の統治を想定して中国国民党(以下、国民党)が主導し、1946年に制定、翌47年に施行された。しかし、1990年代以降に条文を追加する形での改正を経たため、現在の総統の性質はかつてと大きな違いがある。

1946年制定時の憲法では、総統は有権者の直接選挙で選ばれた国民大会代表により、間接的に選出されると定められた。この手続きにより1948年5月20日に蔣介石が初代総統に就任する。ただし、このときは国民党が中国共産党との内戦のさなかであったことから、国民大会は総統に強大な権限を認める「反乱鎮定動員時期臨時条項」を通過させた。そのため、内戦に敗れて台湾に撤退した蔣介石政権および、その後を継いだ息子の蔣経国政権は、この臨時措置を根拠に台湾で強権政治を展開した。

蔣経国の没後、国民党内の支持を得て総統となった李登輝は、国民党による一党支配体制への不満を訴える世論を背景として憲政改革に着手した。1991年、「反乱鎮定動員時期臨時条項」が廃止されるとともに、条文追加の形で最初の憲法改正が行われる。1994年の第3次改憲では総統の直接選挙が定められ、1996年に李登輝が初代民選総統となった。こうして台湾は民主化を遂げ、その後「半大統領制」と呼ばれる政治制度を整えていった【総統】。

1996年以降、台湾では4年に1度、民主的な選挙を通じて平和的な政権交代が繰り返されている。2000年に総統に就任した民主進歩党(以下、民進党)の陳水扁は2004年に再選されて2008年まで務め、その後は国民党の馬英九政権(2008-16年)、民進党の蔡英文政権(2016-2024年)と続いた。2024年の選挙では民進党の頼清徳が総統に当選し、民主化後初めて同一政党が3期連続で政権を担うことになった。

もっと知りたい方のために

・若林正丈『台湾の政治――中華民国台湾化の戦後史 増補新装版』東京大学出版会、2021年

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家永真幸提供