総統

家永真幸

台湾の総統は、中華民国憲法によって定められた国家元首である。「総統」は英語のpresidentの訳語で、日本語の「大統領」と同じ意味である。日本では19世紀後半のペリー来航をきっかけに「大統領」という訳語が定着したが、中国語圏では同じころに清朝で「総統」という訳語が生まれ、中華民国にも受け継がれた。なお、日本の現行憲法は国家元首を定めておらず、日本には台湾の総統に相当する地位の人はいない。

語源はさておき、台湾の総統は台湾の大統領に相当する。ただし、台湾の政治制度は半大統領制と呼ばれ、アメリカのような大統領制と、日本のような議院内閣制の両方の特徴を持つ。

台湾の総統は、陸海空軍の統率や条約の締結といった大きな権限を持つ。一方、台湾には、日本の内閣に当たる国家の最高行政機関として行政院が設けられており、日本の総理大臣に相当する行政院長がいる。すなわち、台湾には総統と行政院長という2人の執政長官が存在することになる。

台湾の総統は、住民の直接選挙によって選出される。4年に1度の総統選は、大変盛り上がることで有名である。同じ人物は2期まで総統を務めることができ、再選されれば最長8年間の任期を得られる。

行政院長は総統によって任命されるので、総統が変われば台湾の政治は大きく変わる。ただし、台湾の国会である立法院は、不信任決議により行政院長を解任する権限を持つ。立法院を構成する立法委員(国会議員)は、総統と同様4年に1度、住民の直接選挙によって選ばれる。つまり、総統は民意の代表者なのだが、政権を安定的に運営するためは、別ルートで選ばれた民意の代表が集う立法院との関係に気を遣いながら行政院長を選ばなくてはならないのである。台湾の政治は、このような形で住民の意向が政治に反映される仕組みになっている。

もっと知りたい方のために

松本充豊「台湾の執政制度と総統選挙」『日本台湾学会報』第23号、2021年
松本充豊「総統に求められるものは何か―台湾の政治制度から考える―」『交流』第984号、2023年3月

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