伝統的な製塩法では、瓦や壺の破片や土砂を敷き詰めた池で、何日もかけて海水を天日で干し、塩の結晶を作ります。そのため塩作りには、海に面した広大な土地と強い陽射しが必要でした。かつて台南地域の沿岸部には、海面と地面との高低差が少ない干潟のような土地が広がっていました。また、台湾南部は日照時間が長く気温の高い亜熱帯気候です。こうした台南の土地と自然条件が、塩田をひらくのに最適だったのです。
台南市政府観光旅遊網図庫系統 陳威宏撮影
台湾では17世紀から塩作りが始まりました。清朝統治期の1726年に食塩は専売制となり、1895年以降の日本統治期には、いったん自由化されたものの、1899年にあらためて専売制度が施行されました。20世紀に入ると、神戸の商社「鈴木商店」の傘下にあった大日本塩業株式会社などが台湾に進出、台南の安平は日本内地へ送る塩の集荷拠点として発展しました。戦後は、1952年に「台湾製塩総廠」が設立され、製塩業は国営事業となりましたが、2002年に民営化され、今日に至っています。
私たちの生活に欠かせない塩。どんな時代でもその国の発展を支えるための重要な物資とされてきました。しかし台湾でも、伝統的な製塩法は現代的な製塩技術に取って代わられ、その多くを海外からの輸入に頼るようになりました。近年は海の水質汚染など環境問題もあいまって、かつてのような広大な塩田風景を見ることはできません。そこで現在、台南市北門区にある「北門井仔脚瓦盤塩田」では、塩田を復活させ古来の手法で塩作りをおこなっています。地域の歴史と文化を継承するための試みのひとつといえるでしょう。