牡丹社事件紀念公園 牡丹社事件紀念公園

近代日台関係史の原点「台湾出兵」を先住民族パイワンの視点から学び、交流する場

黒羽夏彦撮影

1874年、日本は台湾南部の恒春半島に西郷従道率いる3,600人超の兵士を送り、現地の先住民族パイワン(Paiwan、排湾族)の2つの村と交戦し、半年間この地を占領しました。発端は、その約2年半前に起きた「琉球漂流民殺害事件」でした。日本は現地の先住民族の「懲罰」を口実に台湾出兵を決めましたが、台湾南部を植民地化するという野望もありました。「牡丹社」とは、事件に関わったパイワン民族の村の名です。重火器を携えた西郷軍との戦いで、パイワン側は牡丹社の首長父子ら多くの犠牲者を出し、村を焼き払われました。この公園は、石門と呼ばれる戦場跡に位置します。先住民族パイワンの視点からこの事件を学び、互いの立場を理解して交流を深めるための場所です。

学びのポイント

「琉球漂流民殺害事件」はなぜ起こったのか?

歴史的記録が少なく、真相はよくわかっていません。しかし最も早い記録に拠れば、漂着した琉球の一行66人は山中のパイワンの村で一夜を過ごした後に逃げ出し、追ってきた村人に54人が殺されました(12人は生還)。パイワン側からこの事件を長く調査研究してきた人の考証に拠れば、琉球の人々が村に客人として迎え入れられたにも関わらず逃げ出したことは、当時のパイワン民族の慣習法を犯す行為であり、追って理由を質すも意思疎通ができず、事件が起きてしまったのだといいます。

この公園はいつごろ、なぜできたのか?

台湾出兵については、台湾の歴史の教科書でも必ず記載され、学習されます。しかし、従来の教科書に琉球漂流民殺害の理由や詳しい説明はなく、「牡丹社」の先住民族は殺人者だという単純なイメージが台湾社会に広く流布し、この地のパイワンの人々は長らく蔑視され、辛い経験をしてきました。他方、村で記憶され語られてきた歴史は、教科書のそれとは異なります。そこで、自民族の視点をもふまえて一連の事件を理解し説明するため、2014年にこの公園が完成しました。今日の台湾で、先住民族の視点を加味した歴史教育の必要性は広く認識されつつあります。

恒春半島には、他にも事件に関係する史跡があるのか?

琉球漂流民の被害者が埋葬された場所に西郷従道が1874年に建立した墓碑「大日本琉球藩民五十四名墓」、台湾総督府が1916年に西郷軍の本営地跡に建てた記念碑「明治七年討番軍本營地」、同じく総督府が1935年に石門古戦場に建てた「西郷都督遺績紀念碑」と「征蕃役戦死病歿忠魂碑」、日本軍の撤退後に清朝政府が恒春半島の統治強化のために1897年に完成させた「恒春古城」などがあります。

さらに学びを深めよう

  1. 【事前学習】台湾出兵について詳しく調べてみましょう。
  2. 【現地体験学習】現地の地形などを観察して事件の実際の状況を想像しながら、現地のパイワンの人々のお話を聴いてみましょう。
  3. 【事後学習】東アジア近代史において複数の立場や視点が絡み合う歴史的事件について、具体例を調べ、論点を整理し、話し合ってみましょう。

参考資料

台湾出兵をめぐる政治については、毛利敏彦『台湾出兵―大日本帝国の開幕劇』(中公新書、1996年)が、事件をめぐる後世の関係者の多様な立場や見方については、平野久美子『牡丹社事件 マブイの行方―日本と台湾それぞれの和解』(集広舎、2019年)が参考になります。パイワン民族の立場から書かれた考察として、華阿財「「牡丹社事件」についての私見」(『台湾原住民研究』10号、2006年)、同「バヅロク(Valjeluk)からの言葉:信頼と希望」(『台湾原住民研究』11号、2007年)、高加馨「Sinvaudjanから見た牡丹社事件(上・下)」(『琉球大学教育学部紀要』72・73号、2008年)をぜひ読んでみてください。また、琉球漂流民殺害事件を多様に描いた小説として、巴代著、魚住悦子訳『暗礁』(草風館、2018年)もあります。事件に関する近年の学術研究として、大浜郁子「加害の元凶は牡丹社蕃に非ず――「牡丹社事件」からみる沖縄と台湾」(『二十世紀研究』7、2006年)および『台湾原住民研究』10号の「小特集 〈牡丹社事件〉をめぐって」など多数の論文があります。今世紀に入ってからのパイワン民族と沖縄・宮古島との交流については、宮岡真央子「歴史的事件の再解釈と資源化―台湾原住民族パイワンによる「牡丹社事件」をめぐる交渉」(上水流久彦ほか編『境域の人類学』所収、風響社、2017年)、事件関係史跡の歴史と牡丹社事件紀念公園設立に至る経緯については、やや専門的ですが、宮岡真央子「重層化する記憶の場―〈牡丹社事件〉コメモレイションの通時的記憶」(『文化人類学』81(2)、2016年)があります。

(宮岡真央子)

ウェブサイト
交通部観光局https://jp.taiwan.net.tw/m1.aspx?sNo=0003122&id=5857 屏東県牡丹郷公所による牡丹社事件紀念公園についての説明(中国語)https://www.pthg.gov.tw/townmdt/News_Content.aspx?n=C20E020DF76BD0FF&sms=2715FDF194911C1A&s=0AEDAB308B8DCB60
所在地
屏東県牡丹郷石門村
特記事項
牡丹郷公所農観課が、事件の関係史跡巡り、体験学習、解説を含む現地ガイド付きツアーを紹介しています。同課に連絡し、ツアーの行程や内容について、ぜひ相談してみてください。