台湾出兵をめぐる政治については、毛利敏彦『台湾出兵―大日本帝国の開幕劇』(中公新書、1996年)が、事件をめぐる後世の関係者の多様な立場や見方については、平野久美子『牡丹社事件 マブイの行方―日本と台湾それぞれの和解』(集広舎、2019年)が参考になります。パイワン民族の立場から書かれた考察として、華阿財「「牡丹社事件」についての私見」(『台湾原住民研究』10号、2006年)、同「バヅロク(Valjeluk)からの言葉:信頼と希望」(『台湾原住民研究』11号、2007年)、高加馨「Sinvaudjanから見た牡丹社事件(上・下)」(『琉球大学教育学部紀要』72・73号、2008年)をぜひ読んでみてください。また、琉球漂流民殺害事件を多様に描いた小説として、巴代『暗礁』(草風館、2018年)もあります。事件に関する近年の学術研究として、大浜郁子「加害の元凶は牡丹社蕃に非ず――「牡丹社事件」からみる沖縄と台湾」(『二十世紀研究』7、2006年)および『台湾原住民研究』10号の「小特集 〈牡丹社事件〉をめぐって」など多数の論文があります。今世紀に入ってからのパイワン民族と沖縄・宮古島との交流については、宮岡真央子「歴史的事件の再解釈と資源化―台湾原住民族パイワンによる「牡丹社事件」をめぐる交渉」(上水流久彦ほか編『境域の人類学』所収、風響社、2017年)、事件関係史跡の歴史と牡丹社事件紀念公園設立に至る経緯については、やや専門的ですが、宮岡真央子「重層化する記憶の場―〈牡丹社事件〉コメモレイションの通時的記憶」(『文化人類学』81(2)、2016年)があります。
(宮岡真央子)