國立故宮博物院南部院區(故宮南院) 国立故宮博物院南部院区(故宮南院)

台湾から中華文化、アジア文化を広く見とおそう!

家永真幸撮影

台湾南部の嘉義県に2015年末にオープンした、台北にある国立故宮博物院(以下、台北故宮)の分館です(以下、南院)。博物館建築は水墨画の技法に着想を得たという特徴的なもので、設計は台湾を代表する建築家である姚仁喜(クリス・ヤオ)氏が担当しました。ヤオ氏は、2019年に台湾から日本に進出した複合型書店「誠品生活日本橋」の店舗空間設計を手掛けたことでも話題になりました。台北故宮が「中華文化」を象徴する名品の展示をメインとしているのに対し、南院では台北故宮から提供された作品に加え、新たに収集した作品や、海外から借り受けた作品も合わせて、広く「アジア文化」を体感できるような展示がなされています。

学びのポイント

なぜ南院が造られることになった?

台湾では民主化の進んだ1980年代頃から、台湾南北の文化格差を縮めるという政治課題が重視されるようになり、台北故宮の分館を台湾南部に設けるべきではないかという議論も持ち上がってきました。2000年の政権交代で民主進歩党の陳水扁政権が誕生すると、具体的な南院の新設計画がスタートしました。その後、2008年には再び政権交代が起こりましたが、国民党の馬英九政権の下で2015年12月、南院はついにオープンしました。今のところ南院の周囲にはのどかな田園風景が広がっていますが、これから周辺の観光がどれだけ盛り上がるかも楽しみの1つです。

南院の展示にはどのような特徴がある?

南院建設計画が持ち上がった当時の台湾では、政治体制の民主化と同時に、「台湾は台湾であり、中国の一部ではない」という考え方も住民の間で広がっていました(この現象は、台湾を自分たちの「本土」だと見なすという意味で、「本土化」とも呼ばれます)。それまで台湾の人々は「あなたたちは中華文化の継承者である」と教育されてきましたが、1990年代になると、台湾の文化は多様で豊かなもので、中華文化は台湾の文化を構成する1つの要素に過ぎないといった考え方が人々の支持を得ていきました。そのため南院は、「中華文化」という単一の文化ではなく、広く「アジア文化」を表現し、台北故宮の保有する歴代の中華王朝による美術コレクションも「アジア文化」の一部と位置づけて展示することを目指しました。

さらに学びを深めよう

  1. 【事前学習】台湾南部は文化や歴史などの面で、台湾北部とはどのように異なった特徴を持つのか調べてみよう。
  2. 【現地体験学習】 「アジア文化」はどのように表現されているか、VRのようなデジタル技術はどう活用されているかなどに注目しながら、故宮南院の展示の特徴をよく観察しよう。
  3. 【事後学習】台湾の人々は「台湾文化」をどのようなものだと考えているのか、考察してみよう。

参考資料

台湾北部の大都市である台北ではなく、台湾南部から台湾を理解する視角を示してくれる本として、大東和重『台湾の歴史と文化』(中公新書、2020年)があります(故宮南院のある嘉義ではなく、台南という都市を主な舞台とするものです)。故宮博物院が中国大陸から台湾に移転したことの意義や、台湾における故宮博物院の社会的位置づけの変化については、松金公正「台北故宮における「中華」の内在化に関する一考察」植野弘子・三尾裕子編『台湾における〈植民地〉経験』(風響社、2011年)や、家永真幸『国宝の政治史』(東京大学出版会、2017年)などをご覧ください。台湾の人々の「本土」意識や、文化の多様性を重んじる姿勢については、若林正丈・家永真幸編『台湾研究入門』(東京大学出版会、2020年)所収の何義麟「台湾人アイデンティティ」、田上智宜「多文化主義」などが参考になると思います。

(家永真幸)