売店には豆油伯のさまざまな商品に加え、醤油ソフトクリームも(李佩儒氏提供)
豆油伯の商品を購入できる売店が併設された工場(李佩儒氏提供)
豆油伯純釀醬油工廠
豆油伯純醸醬油工場
台湾産大豆と天然醸造にこだわる醬油を通して知る6次産業化
豆油伯は台湾を代表するブランド醬油を製造する企業です。工場群は台湾南部の屏東県竹田郷にあり、日本時代の駅舎が残されていることで知られる台湾鉄道の竹田駅から徒歩で行ける場所に主力工場があります。台湾南部は農業が盛んな地域で、大豆の重要な産地として知られています。また台湾を南北に貫く中央山脈の南端の麓にあり、水脈や日当たりに恵まれていることから醸造業に適した土地でもあります。そうした自然や産業条件の背景から醬油産業が勃興し、豆油伯はその中でトップクラスの企業のひとつとして成長しました。同社の主力工場の敷地内や近辺では醬油やその原材料を活用したソフトクリームなどが販売され、醬油製造や食品のブランド化、加工に触れることができます。
学びのポイント
台湾を代表するブランド醬油、日本人による技術指導も
台湾や中国でも大豆などを利用した発酵調味料は多用され、台湾では約400年前に中国から移り住んだ人たちによって醬油の醸造が始まりました。台湾で当初つくられていた醬油は黒豆を主原料としたもので、大豆や小麦を使う日本の醬油とは素材も製法も違いました。これらの台湾醬油は各地で醸造技術が継承されていましたが、人口増によって醬油の需要が増大し、伝統的製法から大量生産への変化が求められる中で、従来の味が維持されなくなるといった課題も生じたようです。屏東県竹田で醬油醸造業を引き継いでいた李安田は、日本人に醸造技術の指導を受け、天然純醸によって風味を保てる生産技術を確立し、1972年に会社を設立しました。「豆油伯」ブランドを名乗り、積極的な設備投資や生産技術の革新を続け、大量生産でも醸造醬油の品質を損なわない技術を確立、一大ブランド醬油企業として知られるようになりました。
6次産業化の形のひとつ
豆油伯は台湾の代表的な醬油ブランドとして海外にも輸出されるようになりました。同社は6次産業化の一事例として捉えることもできます。6次産業化とは日本の農業経済学者が提唱した考え方で、1次産業である農林水産業の事業者が加工などを行う2次産業、流通・販売などを行う3次産業まで経営を多角化させる取り組みを指します。醬油醸造業は2次産業の加工業なので、厳密には6次産業化に当たりませんが、豆油伯は原材料の大豆に農薬使用や遺伝子組み換えのものを使わないために台湾全土で農家と栽培契約を結んでおり、これらの契約農家を自社のサプライチェーンに組み込むことで組織化を図り、農業従事者の権益保護にもつなげています。1次産業から3次産業までを一体化して新たな事業形態をつくり出した点で、6次産業化のひとつの事例であるといえるでしょう。
食品不祥事問題
豆油伯は2015年に不祥事を起こしています。生産量を増やすために製造している一部の醬油製品に他社製の醬油を混ぜるなどの偽装を行っていたのです。これは消費者の信頼を失墜させる大きな問題で、同社は大量の返品対応をするなど危機的状況を迎えました。この危機を受けて豆油伯はガバナンス改革や生産設備の一新などに努め、再びブランド醬油製造者としての地位を取り戻しました。日本でも食品に関する不正問題が相次いでいますが、豆油伯の事例は、食品事業に関する考え方や問題が発生した後の企業の対応について考える一事例になるでしょう。
さらに学びを深めよう
- 【事前学習】醬油を使った日本と台湾の料理、醬油の生産・消費量など、醬油産業について調べてみましょう。
- 【現地体験学習】農業やその加工品が自然条件に左右されることや、地域特有の産業の存在感を実感しましょう。
- 【事後学習】農業と食品産業のつながりについて、醬油以外の例や地元の例を台湾の例と比較してみましょう。
参考資料
しょうゆ情報センターは、日本の醬油業界の団体が対外発信のために運営しているウェブサイトで、醬油に関しての基本や業界データなどが掲載されています。古い文献ですが、『日本醸造協会誌』(90巻5号、1995年)にキッコーマンで台湾駐在を経験した人物による台湾醬油産業に関する解説論考、関根一男「台湾における醤油の現状」が掲載されています。台湾における食品のトレンドや安全に対する社会的意識については、日本台湾交流協会の機関誌『交流』(No.1011、2025年6月)にある菊岡翔太「加工食品の台湾展開—中小食品メーカーの輸出のポイント」で理解を深めることができます。
- ウェブサイト
- 公式
https://www.mitdub.com/zh-TW
(中国語)
- 屏東県政府
https://www.i-pingtung.com/pingtungattractions/%E8%B1%86%E6%B2%B9%E4%BC%AF%E7%B4%94%E9%87%80%E9%86%AC%E6%B2%B9%E5%B7%A5%E5%BB%A0
(中国語)
- 所在地
- 屏東県竹田郷履豊村豊振路2-8号
- 特記事項
- 工場併設の売店は営業時間内に自由に出入りできますが、工場や工程内部は一般に公開されているわけではありません。参観の可否は施設に確認してください。
