キノコの栽培工場(國府俊一郎撮影)

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農業部農業科技園區

農業部農業サイエンスパーク

自然と経済の持続可能な関係を創る農林水産業を考えよう

屏東県長治郷にある農業部農業サイエンスパーク(農業部農業科技園区)は、農林水産業に関する人材育成や技術革新、持続可能な産業運営の模索のために建設された特別区です。農林水産業は、毎日の食に直結し、私たちの体をつくり上げる産業であると同時に、自然とも深く結びついています。経済性が過度に優先されると、環境や生態系の破壊を招き、人々の健康も脅かされかねないため、自然や健康と調和しながら発展する持続可能な道が模索されています。敷地内では、喬本生医股份有限公司のように持続可能な農業循環を模索する企業の見学ができます。また、観賞魚養殖・販売業者の展示空間として創設されたアジア太平洋水棲生物センターでは、海水や淡水に生息する魚やエビ類の生態を学ぶこともできます。

学びのポイント

農業科技園区の由来と意義

2002年3月、台湾はWTO(世界貿易機関)に加盟しました。これにより輸出入が自由化され、海外の安価な農産物が流入する中、台湾は農業産品の付加価値向上を戦略としています。その一環として、2003年に屏東に設立された農業科技園区では、高度な農業技術を持つ人材や企業を集積し、付加価値の高い農業への転換とともに持続可能な農業の実現を目指しています。 屏東県長治郷の農業科技園区は、233ヘクタールの広大な敷地に、食品加工、養殖技術、農業資材、バイオテクノロジーなどの分野の115社が進出しており、総投資額は171.1億台湾ドルに上ります(2025年3月時点)。敷地は高速道路に面し、高雄国際空港や台湾高速鉄道左営駅へも車で30分と交通の便が良く、次に述べるように参観施設も整備されています。

持続可能な生薬製造を目指して<喬本生医股份有限公司>

楠(クスノキ)の一種で、台湾原産の「牛樟(ぎゅうしょう)」という樹木があります。高級家具や木彫り工芸品などに重宝されるほか、樟脳の原料としても知られ、牛樟から抽出される精油は虫除けや防臭剤、医薬品などに用いられています。かつては台湾の海抜200〜2000メートルの広葉樹林に広く分布していましたが、乱伐により減少し、現在は農林法による貴重樹木の一つに指定されています。 牛樟の枯木や切り株には、牛樟芝(ベニクスノキタケ)というキノコが寄生・生育します。中国医学では、牛樟芝には肝機能の保護や解毒、抗癌作用があると言われています。喬本生医股份有限公司は、この牛樟芝の栽培を手がけ、森林と同様の温度や湿度を維持する専用施設を整備しています。 牛樟は数が減少し、伐採が禁止されているため、栽培用の原木の確保が困難です。そこで喬本生医では、牛樟の木とその生育環境である森林の再生をめざして、循環型農法の確立を模索しています。

牛楠の根(國府俊一郎撮影)


鑑賞魚やエビの生態を考える水族館<亞太水族中心>

農業科技園区には多くの水産関連企業が進出しています。アジア太平洋水棲生物センターは、園区内の観賞魚養殖・販売業者のために設けられた展示スペースで、業者同士の情報交換や交流の場にもなっています。3階建ての広々としたホールには、60基以上の水槽が設置されています。2014年6月からは一般公開が始まり、台湾原産のエビをはじめ、金魚やコイなどの淡水魚、エンゼルフィッシュといった海水魚、さらには古代魚まで、多様な水生生物が展示され、水族館としても十分に楽しめます。建物の前にある、草間彌生氏による魚の彫刻作品も、訪れる人々の目を引きます。
さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】樟脳とは何か調べてみましょう。樟脳と台湾の歴史との関係も調べてみましょう。
  • 【現地体験学習】「アジア太平洋水棲生物センター」に展示されている水棲生物をメモし、本来の棲息地域を調べてみましょう。
  • 【事後学習】身近な観賞用熱帯魚が販売されている店で、どのような流通経路をたどって店の水槽までやってきたのか調べてみましょう。
参考資料
「森の中で深呼吸―台湾の森林が持つ いやしの力」(『台湾Panorama』2023年5月号)は、台湾の森とクスノキについて、日本語で知ることができます 。中国語ですが、農業部林業及自然保育署による牛樟の紹介が参考になります。翻訳機能などを用いて読んでみましょう。。さらに専門的知識を深めたい人は、学術論文ですが、陳桂清「台湾の樟脳政策に関する史的研究 (1)」(『林業経済』9号、1976年、15-21頁)に挑戦してみましょう。

(國府俊一郎)

ウェブサイト
公式 https://www.atp.gov.tw/JPN/

所在地
屏東県長治郷徳和村神農路1号

特記事項
喬本生医の工場見学は要予約(電話:+886-(0)8-7620033)。