恒春を代表する民謡歌手の紹介と月琴の展示(李佩儒撮影)
白い船をモチーフにした文化センターの外観(李佩儒撮影)
恆春文化中心民謠館
恒春文化センター民謡館
「白い船」の中で恒春民謡の歴史を知り恒春半島の音を感じる
恒春文化センター民謡館は、2024年に恒春県城東門の城壁近くに開館した博物館で、恒春のランドマークとなっています。恒春の港に停泊している白い船をイメージした建物は、台湾人建築家の王銘顕と日本人建築家の團紀彦の合同設計によるものです。1階には、恒春民謡の展示エリアと音の博物館があります。恒春民謡の展示エリアでは、恒春民謡の歴史を学べるほか、地元の恒春民謡歌手について知ることもできます。また、月琴を演奏できる体験コーナーもあります。音の博物館では、恒春半島の自然や文化に関わるさまざまな音を聴くことができます。2階には、民謡や屏東の歴史に関する本を多く収蔵した開架式図書館があり、自由に閲覧できます。
学びのポイント
7つの曲調に思い思いの歌詞をのせて歌う恒春民謡
民謡(フォークソング)とは、庶民の生活のなかで生まれ、口承によって歌い継がれてきた歌を指します。恒春民謡は、先住民や客家の人々が多く暮らす恒春で生まれ、それぞれの文化が融合して生まれた独自の音楽で、その歴史は200年以上さかのぼることができます。恒春民謡には、「思想起」、「四季春」、「守牛調」、「平埔調」、「五孔小調」、「楓港小調」、「牛母伴」という7つの曲調があり、歌い手は月琴を奏でながら、台湾語で、自然、風景、人物、身の回りの物事などを即興で歌います。定型のメロディだけがあり、歌い手が思い思いの歌詞を自由に創作して歌い上げるところが、恒春民謡の特徴です。
陳達から始まった恒春民謡ブーム、そして半島歌謡祭開催へ
1967年、音楽家の許常恵らが「民謡採集運動」を始め、恒春を訪れて民謡の収集と記録を行い、陳達(1906〜81)に出会います。陳達の音楽が録音されたレコードが発売されると、恒春民謡ブームが巻き起こりました。陳達の死後、恒春民謡を守ろうと志す人々により、1989年に屏東県恒春鎮思想起民謡促進会が設立されます。同会は、学校など地域社会とも連携しながら民謡クラスを開設し、恒春民謡の継承と促進、普及に努め、朱丁順、陳英らの恒春民謡歌手を輩出しました。2009年には、屏東県政府が、海外ゲストも迎える恒春国際民謡音楽祭を創設しました。2019年以降は、半島世界歌謡祭としてリニューアルされ、恒春民謡をベースに、舞台芸術やポップミュージック、ジャズやオーケストラといった多元的な音楽要素を融合させた大規模な音楽フェスティバルが開催されています。
「恒春民謡ブーム」の火付け役となった陳達(赤松美和子撮影)
恒春を音で体験するランドマーク
恒春文化センター民謡館のある恒春鎮は、台湾島の最南端、屏東県に位置し、東は太平洋、西は台湾海峡、南はバシー海峡に囲まれた恒春半島の南端にあります。その大部分が海岸線に接しているため、波の音のほか、落山風と言われる冬の北東季節風の音、鳥の声といった音を聞くことができます。音の博物館では、これらの恒春で収集された自然の音に耳を傾けることができます。また、リラックスして民謡の調べを聴くこともでき、恒春を音で楽しめる珍しい空間になっています。
恒春を音で体験する展示(李佩儒撮影)
さらに学びを深めよう
- 【事前学習】民謡とは何か、調べてみましょう。
- 【事前学習】あなたが暮らす都道府県の民謡を調べてみましょう。
- 【現地体験学習】月琴を弾いてみましょう。
参考資料
恒春民謡や半島歌謡祭については、栖来ひかり「たいわんほそ道~屏東恒春~帝国の欲望が生まれ、潰えた半島を歩く(前編)」にわかりやすく紹介されています。過去の半島世界歌謠祭の映像は、
公式YouTube『半島世界歌謠祭 Hear Here』で視聴可能です。恒春半島の気候や季節風については、吉野正敏「台湾南部恒春半島の「落山風」について」(『地理科学』45巻4号、1990年)で詳しく学べます。
