赤松美和子撮影

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舊北門驛

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阿里山鉄道北門駅

台湾の資源の宝庫、阿里山に挑む登山鉄道の起点

台湾の嘉義から南は熱帯気候に分類されます。嘉義の山間に広がるのが阿里山山脈で、古くから景勝地として知られてきました。現在は国定公園に指定され、豊かな自然を目当てに、今なお多くの人々がこの地を訪れます。人々を阿里山へいざなう足となるのが世界屈指の登山鉄道、阿里山森林鉄道(現在は、阿里山林業鉄道が正式名称)です。北門駅は、この阿里山森林鉄道の車庫、工場があり、さらには駅の周辺には「東洋一」とも呼ばれた製材所が作られ、阿里山の豊富な資源を世界へ運ぶ拠点となっていました。

学びのポイント

天然資源の宝庫阿里山へ向かう鉄道

台湾がかつて日本に統治されていた時代、台湾を統治した台湾総督府は、林業資源開発に着手します。阿里山周辺地域は、ヒノキを中心とする貴重な資源の宝庫であり、総督府は調査の上、資材運搬や開発に利用するため鉄道敷設を計画、これが阿里山森林鉄道のはじまりです。

日露戦争による財政的な要因から、総督府による開発は断念されたが、経営許可が与えられた大阪の藤田組によって鉄道の建設が始まります。しかし、開発の途中、全線の開発には予想より多額の建設費用を要することがわかり、藤田組も開発を断念、総督府がまた直営事業として開発を引き継ぐことになりました。1912年には、嘉義から二万平までが正式に開業、1913年には阿里山(現在の沼平)までの全線が開業しました。現在の総延長は支線も含め約72kmに及び、嘉義と最高地に位置する沼平の標高差が2200m以上となる屈指の登山鉄道です。厳しい環境に位置するため、これまで台風や大雨の被害を繰り返し受け、2009年には全面的に運行を停止しました。その後一部区間は復旧されましたが、現在も十字路~阿里山間は修復中です。

阿里山開発の拠点、北門

台湾鉄道(台鉄)の嘉義駅から阿里山へ向かう列車は、まず北門駅に止まります。1906年、藤田組によって建設がはじめられた阿里山鉄道は、平野部にあたる嘉義から竹崎が完成しました。しかし、その完成からすぐ、藤田組は阿里山開発の中止を決めたため、当初は蒸気機関車ではなく人がトロッコを押すかたちでの運行が行われました。台湾総督府による本格的な開発は1910年から始まり、1912年までひとまず全線が正式に開業しました。北門駅の周辺には、藤田組の時代から、林業に関わる事務所がありました。1910年、総督府による阿里山の経営が始まり、その専門機関として阿里山作業所が設置されました。1913年、北門駅の周辺には、阿里山から送られた木材を製品に加工する製材所(嘉義製材所)や貯木場と呼ばれる、山から取ってきた樹木を保管しておく場所が造られ、また北門駅の周辺は、多くの木材加工に関連する産業が集まりました。そのため、北門駅は阿里山開発の重要な拠点となったのです。阿里山周辺で取られた木は、鉄道によってここまで運ばれ、木から角材や板材といった材料に加工されます(製材)。そしてここからさらに鉄道で台湾各地、さらには世界各地へ運ばれていきました。

北門駅のやや南側には、昔から現在まで、阿里山森林鉄道の補修などを行う基地があり、たくさんのレールと車庫が並んでいます。阿里山鉄道には阿里山、奮起湖にも車庫がありますが、北門の車庫は最も大きな車庫です。現在、このエリアは「阿里山森林鉄路車庫園区」と呼ばれ、かつて使われていた機関車や客車が展示され、見学することもできます。 今日の阿里山鉄道のほとんどは石油で走るディーゼル機関車で運転されています。しかし、100年前にアメリカから購入した「シェイ式」と呼ばれる独特の蒸気機関車もここで保存、整備が行われ、ときには動くすがたを見ることができます。1912年に建てられた駅舎は、完成当時の姿に復元され、見学することが出来ます。駅舎の木材には、阿里山で採られたタイワンベニヒノキが使われています。
さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】【事後学習】阿里山で採られたヒノキがどこで使われているのか調べてみましょう。
  • 【事前学習】【事後学習】阿里山鉄道をはじめ、世界的に有名な登山鉄道を調べ、比較してみましょう。
  • 【現地体験学習】阿里山鉄道は世界でも屈指の登山鉄道で、非常に珍しい工法や機構を採用しています。その特徴的な構造を見つけましょう。
参考資料
阿里山について最も手軽に調べることができるのは、行政院林務局の阿里山に関連した公式ウェブサイトです。日本語でも詳細な紹介があります。特に、阿里山森林鉄道については詳しく説明されています。論文、コラムとしては蔡龍保「台湾の近代化と日本人技師(6)台湾観光の聖地、阿里山森林鉄道の知られざる歴史」『Think Asia』(第40号、2020年)や、片倉佳史「片倉佳史の台湾歴史紀行(第15回)阿里山 : 鉄道とともに進められた森林開発」『交流』(第944号、2019年)などが手に入りやすく、専門性の高い情報も掲載されています。

(松葉隼)

ウェブサイト
公式https://afrch.forest.gov.tw/0000082
嘉義市觀光旅遊網(嘉義市政府)https://travel.chiayi.gov.tw/travel-content?id=13&lang=zh_TW
所在地
嘉義市東区共和路428号