薛家古厝(倉本知明氏提供)

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薛家古厝

薛家古厝

建て替え続けられた古民家と海軍兵士たちの歓楽街―薛家古厝と西陵街―

高雄市左営区にある薛家古厝(古厝は古民家の意)は、清朝時代に中国福建省から移民してきた薛家の人々が四世代かけて増築してきた伝統家屋です。入り口から奥に進むにつれて増築された新しい家屋が現れるようになっていて、手前からそれぞれ1820年、1850年、1910年に建てられた家屋が重なり合っています。高雄市政府から古跡指定されていますが、薛家の人々は今でもこの先祖伝来の古厝で暮らしています。この薛家古厝から歩いて5分ほどの場所には、西陵街と呼ばれる細い路地があります。薛家古厝のすぐ近くには左営海軍基地と軍人とその家族たちが暮らしす眷村群が広がっていたために、商店街には今でも海軍兵士たち行きつけの老舗店舗が立ち並んでいます。わずか500メートルほどの商店街ですが、海軍兵士たちの被服小売り業や各種の軽食店などが軒を連ね、かつては休暇中の兵士たちの娯楽用に多くの映画館がひしめき合っていました。今でもその名残を感じることができます。

学びのポイント

薛家古厝の入り口に残っている穴は何のため?

薛家古厝の正式名称は「左営廍後薛家古厝」です。「廍」とは日本統治時代の前からあった個人経営の製糖場を指します。「廍後」とは製糖場の後ろの場所という意味で、薛家の人々は農業によって生計を立てながら、同時に伝統的な製法で黒糖の製造・販売も行っていました。そのために、古厝の入り口近くにはネズミを捕まえる猫を通すための小さな穴が空いています。猫を自由に移動させることで、ネズミたちから大切な穀物や黒糖などを守っていたわけです(穴には排水溝としての役割もあると言われています)。

西陵街にはどんなお店がある?

軽食が食べられる店や飲料店以外に、海軍兵士たちの制服や制帽、階級章などを売っている店もたくさんあります。また、この地域には映画館が数多くあったことでも知られています。陸に上がった兵士たちの娯楽用に建設されたもので、西陵街の北側にある中山堂(1950年-2009年)は、高雄で最も長く営業したことでも知られています。西陵街の西側にある中正堂(1963年-2011年)も海軍兵士たち向けに営業していた映画館で、主に台湾の国産映画が上映されていました。この二つの地域を繋ぐ西陵街にも、かつては清水大戲院、大毎天戯院、観光大戯院、十全大戯院、金昇大戯院など多くの映画館がひしめき合っていましたが、今ではその面影を見ることしかできません。また、先述した中山堂は現在改築が進んでいて、2022年には台湾の伝統戯曲を展示する文化センターへと生まれ変わる予定です。

西陵街(倉本知明氏提供)

さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】【事後学習】清朝時代に福建省から多くの移民が台湾に渡って来たのはなぜか調べよう。
  • 【現地体験学習】西陵街に売っている各種商品を見て、どのような人たちがどのようなものを必要としているのか、街の雰囲気を想像してみよう。
  • 【現地体験学習】古厝の入り口にある猫の穴を見つけてみよう。
参考資料
清朝時代の台湾への移民の概略については、伊藤潔『台湾‐四百年の歴史と展望』(中央公論新社、1993年)や大東和重『台湾の歴史と文化‐六つの時代が織りなす「美麗島」』(中央公論新社、2020年)などで知ることができます。ただし、薛家古厝や西陵街に関する日本語の書籍やウェブサイトはなく、日本語ではほとんど調べることができませんので、現地で自分たちの五感を使って体験して下さい。

(倉本知明)

ウェブサイト
高雄旅遊網( 薛家古厝)https://khh.travel/zh-cn/attractions/detail/41

(中国語)

所在地
高雄市左営区海平路44号

特記事項
薛家古厝には現在でも薛家の方が暮らしているので、訪問する際はくれぐれも薛家の方々に失礼のないようにして下さい。