大東和重撮影

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德記洋行

徳記洋行

古い港町に残る、東西交流の面影-安平の洋館群

台南市の中心部からまっすぐ西へ向かうと、海に面した安平の小さな町に至ります。車で15分ほどのこの古い港町は、週末には観光客でごった返します。かつてオランダが台南周辺を統治していた時代、ここに砦が築かれ、台湾支配の中心的な拠点でした。何も知らないで連れてこられると、古い遺跡を見物するだけの退屈な観光地にしか見えないかもしれません。しかし、実は安平は、オランダやイギリス、アメリカ、ドイツ、日本などから商人たちが来て、東西貿易でにぎわった、台湾きっての国際貿易港でした。そして、昔日の面影をとどめるのが、安平の洋館群なのです。

学びのポイント

国際貿易港のなごり

安平には、19世紀後半、海外へと開かれた貿易港だった時代に建てられた洋館が残っています。廃墟のように放置されていたこともありますが、20世紀後半から21世紀にかけてリフォームされ、昔の繁栄をしのばせる施設となっています。代表的な建物が、イギリス商人の建てた、德記洋行です。現在は台湾開拓史料蝋人形館となっており、中を見学できます。その裏手には、生命力の強いガジュマルが洋館全体をおおう、「安平樹屋」という人気スポットがあります。ドイツ商人が建てた東興洋行は、レストランへと模様替えされています。すぐ向かいには、日本統治期に建てられた製塩会社の和式宿舎がリフォームされており、中を見学できます。

大東和重撮影

迷路のような町を散策

徳記洋行から南下すると、安平のみならず、台湾を代表する古跡、ゼーランディア城があります。かつてオランダが拠点とし、台南へと侵攻してきた鄭成功軍を迎え撃った砦です。この古跡の東側に広がるのが、安平の古い町です。「安平銀座」である延平街の北側には、古い伝統建築の民家がぎっしりと立ち並び、道は迷路のようです。民家の門を見てください。口に剣をくわえた獅子、剣獅が描かれています。それぞれ表情が異なり、愛嬌がありますが、一種の魔除けです。また民家の屋根を見上げてください、風獅爺と呼ばれる、これも家々を守る、小さな人形の守護神が飾られていることがあります。剣獅や風獅爺を探しながらの町歩きは、台湾の古い町を歩く喜びを教えてくれるでしょう。

大東和重撮影

台湾のリフォーム文化

古い建築を維持するより、実は取り壊して建て直した方が安く済む場合が多いです。しかも台湾は、日本同様、地震の頻発地です。あえてリフォームして昔の建物を残すのは、台湾の人々が、過去の痕跡をできるだけ残し、台湾という土地がどのような歴史をたどってきたか、目に見える形で表現しようと考えているからではないでしょうか。オランダ統治時代に始まる、文字に残された台湾の歴史は、わずか400年ですが、各地の移民が台湾へと至り、また何度も外来政権による支配を経験しました。各時代に造られた建築を大事にすることで、台湾という土地に刻まれた歴史を大事にしているともいえます。

大東和重撮影

さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】【事後学習】 googleマップなどを使って、安平の古跡や洋館などの施設を記入した地図を作ってみましょう。
  • 【事前学習】【事後学習】 安平に関わる書籍を読んで、どんな土地なのか調べてみましょう。
  • 【現地体験学習】 安平の町を歩き、大航海時代以降、ここにやってきた様々な民族や交流の歴史に思いを馳せてみましょう。
参考資料
港町安平の歴史や町については、大東和重『台湾の歴史と文化 六つの時代が織りなす「美麗島」』(中公新書、2020年)で、一章を割いて説明してあります。これを読みながら、安平の町を歩いてみてください。安平の町を描いた文学作品には、芥川龍之介と並んで大正時代を代表する作家である、佐藤春夫の「女誡扇綺譚」(じょかいせんきだん)という小説があります(『佐藤春夫台湾小説集 女誡扇綺譚』中公文庫、2020年に収録)。安平の港や台南の廃屋を舞台に、ミステリ仕立てで植民地台湾の現状を描いた、大変美しい小説です。

(大東和重)

ウェブサイト
台南旅遊網(台南市政府観光旅遊局) https://www.twtainan.net/ja/attractions/detail/4877

(日本語・中国語)

所在地
台南市安平区古堡街108号