カラホ集落を望む(Miru Hayung(米路哈勇)撮影)

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拉拉山 拉拉山

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拉拉山

台湾先住民タイヤルの伝統的活動領域と台湾山地の豊かな生態系を学ぶ

拉拉(ララ)山は標高2,031メートルで、桃園市復興区と新北市烏来(ウライ)区にまたがっています。一帯は樹齢500〜2000年のヒノキが生い茂り、神木群と呼ばれています。中でも5号樹木は推定樹齢2800年です。一帯は元来、先住民族タイヤルの自由な活動場でしたが、日本統治時代に国有化されました。中華民国時代の1975年に「達観山」と命名され、1986年に達観山自然保護区が設立されました。付近には桃の栽培農家が多く、「拉拉山水蜜桃」として有名です(最盛期は5~7月)。交通は、桃園市と宜蘭県をつなぐ北部横貫公路を利用します。古道として、拉拉山神木群(巴陵)と新北市福山を結ぶ「福巴越嶺」(全長18キロ)があり、健脚の方は挑戦してみましょう。日本統治時代には隘勇線(以下に説明があります)が引かれ、駐在所も置かれました。

学びのポイント

付近の先住民タイヤル集落は

民宿も集まる上巴陵集落は標高1,200メートルほどあり、夏季でも涼しく快適に過ごせます。桃園市と宜蘭県をつなぐ北部横貫公路が完成したのは1966年で、工事には国共(国民党と共産党の)内戦を戦った退役軍人(「栄民」という)が多くあたりました。こうした交通網の整備などによって桃などの栽培と出荷が盛んとなり、ララ山近辺では先住民タイヤルだけではなく、集落の外から来た多くの漢人商人が農園や民宿の経営をするようになっています。どちらかというと資金力に勝る漢人が商売を主導する傾向も見られます。

(Miru Hayung(米路哈勇)撮影)

隘勇線と日本による山地統治とは

隘勇線とは、日本統治の初期、台湾総督府が山地先住民を統治するために取った隔離措置です。先住民からの防備のために武装した隘勇を山沿いに置く制度は清朝期に始まりますが、日本が台湾を占領した当初、総督府はこの制度を援用しました。1900年、隘勇は警察が指揮監督するよう改められました。隘勇は北部の「蕃地」と平地の境界に置かれ、隘勇線に沿った道も造られました。1903年、総督府は深坑(新北市)や宜蘭などに4本の隘勇線を設置して先住民を包囲し、隘勇線付近に高圧電流を通した鉄条網を架設し、地雷を埋めました。この時の隘勇線は、先住民を隘勇線外に追いやり、隘勇線内部の樟脳開発事業を保護するものでした。佐久間台湾総督は積極的な「理蕃」政策を採用し、1907年以降、北部山地の隘勇線を拡張します。中央山脈の南北約70里(約270キロ)に達する隘勇線などによって、先住民は連結された隘勇線に包囲されるか、あるいは隘勇線により奥地に閉じ込められるという境遇に陥りました。その後、1910年代初頭の山地鎮圧戦を経て、北部先住民社会は日本警察の支配下に入ります。ララ山近くの上巴陵集落には、日本時代に軍事拠点として建てられた砲台(馬崙砲台)があり、先住民タイヤルの鎮圧に使用されていました。

   

自然環境を先住民と共同管理するとは

帝国日本という近代国家が侵入する以前、山地先住民は近代的土地所有の概念なく、自由に、しかし自ら問題を解決しながら(これを自治と言います)、ララ山周辺の自然環境と共生してきました。上に述べたように、近代国家はこれを先住民の意思を十分に聞くことなく、国有化し、「自然保護区」として管理しています。台湾先住民族運動は、こうした土地を「伝統領域」として概念化し、その復権を主張しています。

さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】【事後学習】拉拉山には、拉拉山生態教育館という社会教育施設があります。行政院農業委員会林務局のサイト『台湾林悠遊網』というサイトを見て、台湾にはこのほかにどのような自然教育の拠点があるか、またそれぞれの拠点がどのような生態的特徴を持つか、調べてみましょう。
  • 【事前学習】【事後学習】学びのポイントの第三点にあるような現状と歴史について、政府の側は、どうすれば先住民の声を取り入れて自然環境を共同管理・共生していけるでしょうか、望ましい自然管理のあり方について考えてみましょう。
  • 【現地体験学習】拉拉山を歩き、日本の山林とのちがいを記録してみましょう。
参考資料
やや専門的ですが、中村勝の『台湾高地先住民の歴史人類学』(緑蔭書房、2003年)の「マラカム!高峰の焼畑・狩猟民」は、拉拉山近くのタイヤルのカラ集落の生態と文化、歴史を描き出します。上巴陵集落の砲台と、一帯のタイヤルたちと日本軍警の衝突については、中村平『植民暴力の記憶と日本人:台湾高地先住民と脱植民の運動』(大阪大学出版会、2018年)の「植民暴力の常態化としての『和解』:『帰順』をめぐる日本とタイヤルの解釈」に詳しいです。「隘勇線」についてはオンラインの「台湾大百科全書」(執筆呉密察)を参照しました。また杉坂美典さんのページは、ララ山で見られる蝶をたいへん詳しく紹介しています。桃園市の教育旅行向けガイドブック『桃園散策』にも詳しい情報が掲載されています。

(中村平)

ウェブサイト
交通部観光局https://jp.taiwan.net.tw/m1.aspx?sNo=0003107&id=R147 桃園観光導覧網(桃園市政府観光旅遊局)https://travel.tycg.gov.tw/ja/travel/attraction/1527
所在地
桃園市復興区華陵里11鄰205号(達観山自然保護区料金所)