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國民革命忠烈祠

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台北 忠烈祠

革命・抗日の英雄を祀る空間から中華民国のすべての英霊を祀る空間へ

台北の忠烈祠は、正式名称を国民革命忠烈祠といい、中央政府所管の唯一の慰霊施設として中華民国国防部の監督下にあります。国民革命、中華民国の建国、日中戦争、共産党との内戦などに身を尽くし犠牲となった先人に敬意を払い、英霊として祀るため、蒋介石が忠烈祠改築委員会を発足させ、1969年に落成しました。その後、植民地期の抗日運動や台湾社会のために身を捧げた人々を加え、現在は、40万余の英霊が祀られています。毎年、春と秋に総統・副総統等が臨席し、慰霊祭が執り行われています。東京ドームよりやや広い5万2000㎡の敷地内にある大門と大殿には各2名の衛兵が配置されており、1時間ごとの衛兵交代セレモニーには多くの観光客が訪れる一方、慰霊祭は形式的となり、報道されることも少なくなっています。このほか各地方自治体所管の忠烈祠があり、それらと区別するため台北忠烈祠、円山忠烈祠とも呼ばれています。

学びのポイント

衛兵は何を護っているの?

忠烈祠を訪れる観光客の主な目的は、不動の姿勢で瞬きもしない衛兵が突如動き始める交代セレモニーの見学にあります。しかし、彼らが何を護っているかについて興味を持つ人は少ないようです。衛兵は海軍⇒陸軍⇒空軍の順で半年ごと(2月と8月)に交代し、持ち回りで担当しており、同様の交替セレモニーは国父紀念館、中正紀念堂でも見ることができます、しかし、この2か所が孫文と蒋介石という個人を顕彰する施設であるのに対し、忠烈祠の衛兵が護っているのは、軍人ばかりではなく行政官僚や民間人を含む数多くの烈士たちです。

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「文」と「武」との関係?

大殿から見て左側には、行政関係者等を祀る文烈士祠、右側には軍人を祀る武烈士祠が配置されています。「左が上位」という中国の伝統的な位置関係の序列を考えると、「文」が「武」より上位とする建築物の配置になっていることがわかります。その一方で、大殿の周りの廊下には、中華民国建国以来の重要な戦役を描写した合計26枚の絵が掲げられており、中華民国の歴史において軍関係者の果たした役割がいかに大きかったかを示しています。

なぜ現在の場所に置かれたの?

忠烈祠の南を流れる基隆河の両岸には、日本植民地時代、台湾神社のほか臨済護国禅寺、保安宮や孔子廟など、日本人や台湾人の信仰に関わる施設が混在する「神域」と呼べる場所でした。そこに1942年に日本人の英霊を祀る目的で台湾護国神社が造営されました。第二次世界大戦後、中華民国の英霊を祀る施設として忠烈祠の設置が企図され、造営されたばかりの同神社の社殿や敷地が利用され、台湾省忠烈祠が設置されました。その後、日本統治の痕跡をなくすため社殿らを壊し、北京故宮風に造営し、中華民国全体の慰霊施設として設立したのが、国民革命忠烈祠です。台湾各地にある忠烈祠は日本の神社の跡地に造営しているものが多く、桃園市忠烈祠は現在もかつての社殿を利用しています。
さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】【事後学習】辛亥革命とはどんな革命だったのか、台湾との関係を中心に調べてみましょう。
  • 【事前学習】【事後学習】忠烈祠は台北だけでなく台湾各地にあります。他のどの地域にあるか、またその地はもともとどんな場所だったか調べてみましょう。例えば桃園市にある忠烈祠について調べてみましょう。
  • 【現地体験学習】忠烈祠に祀られている山田良政という日本人がいます。なぜ祀られることになったのか探してみましょう。
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参考資料
辛亥革命や抗日戦争期を含め、渡台前の中華民国については、横山宏章『中華民国』 (中公新書、1997年)を読むと網羅的に知ることができます。山田良政については、武井義和『孫文を支えた日本人[増補改訂版]』 (あるむ、2014年)が参考になります。また、日本が海外に設置した神社の現在については、中島三千男『海外神社跡地の景観変容』(御茶の水書房、2013年)で台湾以外のことも知ることができます。台湾における抗日運動については、台湾の研究者の視点から記されたものに周婉窈著、濱島敦俊監訳『増補版 図説 台湾の歴史』(平凡社、2013年)の第8章「二大抗日事件」、第10章「知識人の半植民地運動」などがあります。桃園市忠烈祠については、桃園市政府「桃園忠烈祠と神社文化園区」が参考になります。

(松金公正)

ウェブサイト
公式https://afrc.mnd.gov.tw/faith_martyr/ 交通部観光局https://jp.taiwan.net.tw/m1.aspx?sNo=0003090&id=1795 台北旅遊網(台北市政府観光伝播局)https://www.travel.taipei/ja/attraction/details/743
所在地
台北市中山区北安路139号