2017年8月 撮影:石垣直

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臺北市孔廟

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台北 孔子廟

孔子廟と中華民国

現在の台北孔子廟は、清朝末期に「台北府文廟」として建立され、日本統治期に荒廃したものを、有志らが現在の地に新たに建設したものです(着工:1927年、竣工:1939年)。戦後、国共内戦を経て中華民国政府が台北市に置かれ、後には台北市が孔子廟の管理、運営をサポートするようになりました。また、中国大陸での「文化大革命」に対抗した「中華文化復興運動」が台湾で展開されるなか、台北孔子廟および孔子を祀る祭礼としての釈奠(釋奠)は、中華文明の正統な継承者としての「中華民国」の存在をアピールする重要な舞台のひとつになりました。民主化を経た現在の台湾では、政府が儒教、孔子廟、釈奠を強調することは少なくなりました。しかし、台北孔子廟は現在でも、中華文明の継承と国家統治の正統性をめぐる議論の中で儒教や釈奠が果たしてきた役割を考えさせてくれる、貴重な存在だと言えます。

学びのポイント

孔子ってどんな人?

孔子(BC552-BC479)は、いまから2500年以上前、中国・春秋時代の後半に生きた人物です。孔子は、周王室の力が衰えて諸勢力が覇を競う群雄割拠の時代に、伝統に則った「礼」や「孝」そして様々な「徳」の重要性を唱え、徳を修めた「君子」による政治という理想を追求しました。孔子は故郷の魯(現在の山東省一帯)で要職に就いて理想の実践を試みましたが、それは思うようには進みませんでした。孔子はその後、これまで以上に後学の育成に努めるようになり、最後は弟子たちに見守られて74年の生涯を閉じました。

儒教とは?

「儒教」とは、日本の道徳にも強い影響を与えた、「礼」や「孝」を基調とし様々な「徳」を重んじる、中国由来の考え方です。学問としての側面を強調する場合は「儒学」とも呼ばれます。儒教の原型となる思想を説いたのは、今から2500年以上前に中国の魯に生まれた孔子です。孔子は、中国史において長らく「先聖」(古の聖人)・「先師」(古の教育者)として祭祀されてきました。この孔子を祀っているのが孔子廟です。孔子廟は、「文廟」・「孔廟」・「聖廟」などとも呼ばれます。

孔子廟の意味は?

漢代以降の歴代王朝が儒教を重んじたことで、孔子は次第に「先聖」・「先師」として広く崇められるようになりました。隋代には科挙が開始され、その後に続いた唐代以降には、都および全国の学・廟で孔子を祀り定期的に祭祀する制度が整えられました。こうして孔子は、歴代王朝によって祭祀される重要な対象のひとつ、そして各王朝を支える官僚層の崇拝対象となりました。国の都や地方に設けられた学・廟で孔子を祀るという制度は、朝鮮、日本、琉球、ベトナムなどにも影響を与えました。台北孔子廟では毎年春と秋に、様々な祭品を供え、「楽」(音楽)や「佾舞」(舞踊)を用いて孔子を祀る祭礼(3月「春祭」/9月「釈奠」)が催されています。

さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】【事後学習】孔子が説いた儒教とはどのようなものなのか調べてみましょう。
  • 【事前学習】【事後学習】儒教が東アジア史のなかで果たした役割について調べてみましょう。
  • 【事前学習】【事後学習】台北孔子廟を見学し、その構造、配置や展示物から、中華圏における祭礼のあり方を考えてみましょう。
参考資料
孔子の生涯や思想に関する比較的入手しやすい書籍としては、和辻哲郎『孔子』(岩波文庫、1988年)、貝塚茂樹『孔子』(岩波新書、1951年)、金谷治『孔子』(講談社学術文庫、1990年)、白川静『孔子伝』(中公文庫、1991年)などがあります。孔子のことばを弟子たちがまとめた『論語』や儒教の概要については、金谷治『論語の世界』(NHKブックス、1994年)、加地伸行『論語 増補版』(講談社学術文庫、2009年)、同『儒教とは何か増補版』(中公新書、2015年)などで学ぶことができます。台湾における「中華文化復興運動」と孔子廟・釈奠改革については、水口拓寿「「中華文化の復興」としての孔子廟改革」(中島隆博(編)『中国伝統文化が現代中国で果たす役割』、東京大学、2008年)が紹介しています。なお、台北市孔廟のウェブサイトには、儒教や孔廟・釈奠に関する画像や動画など様々なコンテンツがあり、事前学習に最適です。

(石垣 直)

ウェブサイト
公式https://www.tctcc.taipei/ 交通部観光局 https://jp.taiwan.net.tw/m1.aspx?sNo=0003090&id=212 台北旅遊網(台北市政府観光伝播局) https://www.travel.taipei/ja/attraction/details/798
所在地
台北市大同区大龍街275号