常玉の作品が展示された2024年の「他者他方」展(福田栞撮影)
国立歴史博物館外観(福田栞撮影)
國立歷史博物館
国立歴史博物館
激動の歴史が語りかける、生まれ変わった考古・美術博物館
本館は1955年に成立し、翌年に国立歴史文物美術館、さらに1957年に国立歴史博物館(以下史博館)に改称されて正式に開館しました。周囲には台北植物園をはじめとする国立の文化施設が立ち並び、またこれら施設が南海路に面しているため、この一帯は「南海学園」と呼ばれています。史博館の開館当初は、旧河南省博物館所蔵の考古発掘品や戦後日本から返還された仏画や仏塔などが主な収蔵品でしたが、現在は多岐にわたる5万点の収蔵品を有しています。史博館はかつて中華民国の文化外交の一端を担い、国際芸術交流の場としての役割を果たしました。また、美術館施設がほとんどない時代に、現役世代の美術家による国画(水墨画)、水彩画、油彩画、版画、写真、彫刻、陶芸などを展示し、戦後台湾の美術界の発展を後押ししました。2018年から6年間にわたる改修工事を経て、「近現代の台湾における社会文化発展の歴史を理解するための博物館」を目指し、2024年にリニューアル開館しました。
学びのポイント
エコール・ド・パリ(パリ派)の画家・常玉SANYUとは?
現在史博館には、常玉(サン・ユー、1895〜1966)の作品が52点所蔵されており、これまでに計7回の作品展が開催されました。常玉は1895年四川順慶に生まれ、裕福な家庭で育ち、私塾で漢学や書を学ぶ傍ら、父親に絵を教わりました。のちに「勤工倹学」(中国の青年がフランスに渡り、働きながら学業に勤しむ運動)の流行に乗って、1921年にパリへと旅立ちます。1920年代のパリのモンマルトルおよびモンパルナスには、芸術を志す外国人美術家が集まっていました。当時のパリは芸術の国際的な中心地として、多くの画商が集まり、ギャラリーが林立して、外国人美術家たちの活動を支援していました。常玉もまた著名なコレクターであるアンリ=ピエール・ロシェの支持を受け、美術活動を継続します。彼の作風には、太く黒い輪郭線で物体や人物を縁取る手法、平面的で簡潔な表現、花鳥画を思わせる画題の選択、そして灰色を基調とした落ち着いた色遣いなどの特徴が見られます。これらの特徴から、彼が生まれ育った中国の伝統的な要素を西洋絵画に取り入れようと模索したことがうかがえます。常玉は1990年代から一部のコレクターに好まれるようになり、台湾で人気を博すようになりました。史博館の常玉コレクションは、この流行に先立って華人美術家の作品を収集してきたものです。
戦後台湾のあゆみと史博館
1961年、史博館内に「国家画廊」が誕生すると、アメリカのアジア協会の支援を受け、照明や空調といった室内設備が整えられ、国内屈指の展示施設としてますます成長しました。史博館では、水彩画家の藍蔭鼎(ラン・インディン、1903~1979)、「渡台三家」と呼ばれる張大千(ジャン・ダーチェン、1899~1983)、溥儒(プー・ルー、1896~1964)、黃君璧(ファン・チュンピ、1898~1991)をはじめ、台湾を代表する美術家の個展を多数開催されました。本館は、台湾にまだ正式な美術館がなかった時代、美術活動の重要な拠点として機能しました。一方、1957年からは「自由中国」の名義で「サンパウロビエンナーレ」に参加する美術家の公募と予備展覧会を開催し、台湾の美術家を海外へと送り出しました。これにより中華民国の存在感をアピールするとともに、美術家たちに自己研鑽と活躍の機会を提供したのです。その後、1966年に中国大陸で文化大革命が始まると、台湾政府は「中華文化復興運動」を推進します。その政策に則り、史博館は国内の優秀な書画家、彫刻家、工芸家を動員し、中華文物の極めて高精度な複製品「中華文物箱」を制作して諸外国へと送り出し、展示を行いました。1971年の国際連合脱退以降、中華民国が国際的に厳しい立場に置かれる中、その存在を国際社会に示す上で中華文物箱は重要な役割を果たしました。1987年に戒厳令が解除され、台湾各地に美術館が成立するようになった現在、かつて史博館が担ってきた役割は終わりを迎えました。開館以来収集してきた収蔵品の価値と意義を、現代の台湾社会に適応させながらいかに発信するかが、今後の館運営の鍵となるでしょう。
中華文物箱(福田栞撮影)
さらに学びを深めよう
- 【事前学習】戦後に活躍した台湾の画家を一人調べましょう。
- 【現地体験学習】 好きな作品を一枚探して、色の使い方、タッチ、構図について分析してみましょう。
- 【事後学習】 展示で作品を目にした画家について調べてみましょう。
参考資料
常玉については、二村淳子『常玉 モンパルナスの華人画家』(亜紀書房、2018年)が参考になります。台湾を含む東アジアの戦後モダニズム絵画については、やや専門的な内容になるものの、呉孟晋『移ろう前衛』(中央公論美術出版、2024年)に詳細に論じられています。
- ウェブサイト
- 公式
https://www.nmh.gov.tw/Default.aspx
(日本語・中国語・英語)
- 交通部観光署 https://jp.taiwan.net.tw/m1.aspx?sNo=0003090&id=231
- 台北市政府観光伝播局 https://www.travel.taipei/ja/attraction/details/738
- 所在地
-
台北市中正区南海路49号
- 特記事項
