国家映画・視聴文化センター外観(魏逸瑩撮影)
國家電影及視聽文化中心
国家映画・視聴文化センター
スクリーンと展示でひらく台湾映画の世界
国家映画・視聴文化センターは、映画やテレビなどの視聴覚資産の保存を専門とした台湾で唯一の博物館で、2022年に開館しました。その前身は、1978年に政府と民間が共同で設立した中華民国映画事業発展基金会附設映画図書館です。当時から長年にわたり映画フィルムや関連資料(ポスター、スチル写真、シナリオなど)、図書の収集を主な業務としてきており、数度の組織再編を経て現在の機関へと移行しました。現在、映画フィルム約2万本、視聴覚資料約40万点を所蔵しており、デジタル修復技術を用いた映画のリマスタリングにも積極的に取り組んでいます。保存業務に加え、研究、出版、普及活動や映像教育にも力を注いでいます。さらに、上映会や展示が行われ、華語圏(台湾、香港、中国)の映画関連図書や雑誌、視聴覚資料を所蔵する図書館も併設しています。
学びのポイント
台湾映画の始まりは?
台湾の歴史と映画の始まりは偶然にも重なっています。映画史の幕開きとされる1895年――フランスのリュミエール兄弟がパリのカフェで映像を初めて上映した年は、日清戦争後の下関条約によって台湾が日本の植民地となった年でもありました。台湾映画史の始まりは日本統治時代のことです。台湾で最初に映画が上映された時期については諸説ありますが、1900年代にはすでに台湾総督府による宣撫目的の巡回上映や、台湾人による商業的上映が始まっていました。「宣撫」とは、占領地や植民地において、統治の目的や方向を現地の人々に知らせ、人心の安定を図ることです。日本人と台湾人は言語が異なるため、映画館では観客が分かれて鑑賞することもありました。こうした中で、人口の大多数を占める台湾語使用者のために、物語を解説する「台湾語弁士」が登場しました。台湾語弁士は、日本の一般的な活動写真弁士とは異なり、サイレント映画時代にとどまらず、戦後の1970年代末まで活動を続けていたことが大きな特徴です。
検閲から自由へ――台湾映画の歩み
台湾映画における表現の自由は、時代や政治体制によって大きく左右されてきました。台湾映画史は、政権の変化に沿って、日本統治時代(1895〜1945年)、戦後の中国国民党による一党独裁時代(1945〜1987年)、そして戒厳令解除以降の時代(1987年〜現在)の三つの時期に分けられます。それぞれの政治体制、すなわち植民地体制、権威主義体制、そして民主主義体制の下で、台湾の映画作品のジャンルや題材、さらに創作の自由度は大きく異なっていました。植民地や権威主義の体制下では、映画は必ずしも創作者や映画会社の思い通りには制作できず、当局の検閲を通過しなければなりませんでした。1988年に、ようやく映画検閲制度が廃止され、映画レイティングシステムへと正式に移行しました。民主化の実現とともに、台湾映画は「検閲を通過しなければならないもの」から「自由に制作できるもの」へと大きく転換したのです。
台湾映画の歩みを実感する上映会と展示
同センターでは毎年、台湾映画に関連する上映会や展示、講座が企画され、それらを通じて台湾映画の歩みを体感できます。2025年には、台湾語映画監督の林摶秋(りん・でんしゅう)に焦点を当てた企画展が開催され、彼の代表作の上映に加え、展示や講座を通して、その独自の創作手法や人生の歩みについて理解を深めることができました。実際に映画を鑑賞し、展示を見、講座を聴くことで、台湾映画の多様性をより身近に感じ取ることができるのです。
台湾の武侠映画をめぐる企画展(魏逸瑩撮影)
台湾語映画監督の林摶秋に焦点を当てた企画展(国家映画・視聴文化センター提供)
さらに学びを深めよう
- 【事前学習】【事後学習】サイレント映画時代、日本でよく知られていた活動写真弁士は、どのように映画を説明していたのでしょうか。また、台湾語弁士が戦後の1970年代末まで活動を続けていたのはなぜか考えてみましょう。
- 【事前学習】【事後学習】映画検閲制度と映画レイティングシステムには、どのような違いがあるのでしょうか。また、なぜ日本統治時代や戦後の中国国民党による一党独裁時代の台湾で、映画検閲制度が施行されていたのか考えてみましょう。
- 【事後学習】【事後学習】日本にも、映画遺産を保存したり映画を修復したりする施設があるか調べてみましょう。
- 【現地体験学習】台湾映画を観たり展示を見たりしたあと、日本映画と比べて感じた雰囲気の違いについて、感想文を書いてみましょう。
参考資料
台湾映画の歴史については、戸張東夫・廖金鳳・陳儒修 『台湾映画のすべて』(丸善出版、2006年)、小山三郎編『台湾映画――台湾の歴史・社会を知る窓口』(晃洋書房、2008年)、「特集=台湾映画の現在」『ユリイカ』2021年8月号、赤松美和子・若松大祐編『台湾を知るための72章【第2版】』(明石書店、2022年)などで紹介されています。さらに、みんなの台湾修学旅行ナビでは、台湾の映画上映と関わりの深い劇場「大復戯院」が取り上げられています。加えて、SNET台湾のYouTube番組「台湾修学旅行アカデミー 第8回 映画で知る台湾~青春恋愛映画篇~」(講師:三澤真美恵)では、青春恋愛映画を通して台湾の歴史の重層性や社会・文化の多様性が語られています。これらをあわせて見ることで、台湾映画の魅力を多角的に学ぶことができます。
- ウェブサイト
-
公式https://www.tfai.org.tw/
(中国語・英語)
- 所在地
- 新北市新莊区文芸路2号
- 特記事項
- ガイドツアーあり(現在は中国語のみ)。毎回15〜45人、希望日の6週〜2週前にメールにて予約可能です。展示はすべて中国語で表記されています。
