林安泰古厝外観(阿部由理香提供)

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林安泰古厝民俗文物館

林安泰古厝民俗文物館

台北市で歴史的建造物保存のきっかけをつくった名家の邸宅

多くの台湾の人のルーツがそうであるように、林家の先祖も18世紀に福建省から台湾へ渡り、台北の艋舺(萬華)で海運業や貨物貿易によって富を築きました。屋号の「安泰」は、林氏の故郷である福建省泉州安渓の「安」と当時の屋号「栄泰行」の「泰」にちなんだものです。艋舺で財を成したのち、今の大安区四維路に「四合院」の大邸宅を建てました。この邸宅は、200年近い歴史のある台北市でもっとも完全な形で保存されている代表的な閩南式邸宅でした。1978年、道路(台北市敦化南路)拡張工事のために解体されましたが、保存を望む声が上がり、紆余曲折の末、主要な部分が現在の場所に移築されることとなりました。伝統的な四合院の姿や昔の暮らしぶりを知ることができるほか、風水を取り入れた庭園の鑑賞もおすすめです。

学びのポイント

四合院とは

四合院は中国の伝統建築の一種で、方形(四角形)の中庭を囲むように建物を配置します。林安泰家の四合院は中国南方の閩南式で建てられています。建物の正面には、神様と先祖を祀り、客をもてなす「正庁」があります。その正庁を中心として、一族の中の地位の高い一家から左右に分かれて住みます。林安泰邸宅でも「正庁」に向かって右が一番上の「大房」、左が「二房」というように「房」が増えるごとに左右交互に配置されていきます。ここでいう「房」とは、父親の血統を継ぐ息子を家主とする一家を指します。この「房」の配置から、家族構成をうかがい知ることができるのです。

正庁(阿部由理香提供)

閩南式の邸宅とは?

「閩南」とは、中国の福建南部を指します。閩南式建物は赤レンガの多用や精緻な彫刻が特徴で、扉や壁、廊下の壁や窓には、花、鳳凰、古琴などの吉祥を表す飾り彫刻が施されています。前方の建物が低く、後ろほど高くなっていくのも閩南式の特徴です。これは、冬暖かく夏涼しく、採光や風通しにもすぐれた建築方法です。豪商でもあった林安泰の邸宅は、端が軒先まで反り上がる、高貴な家柄を表す「燕の尾の形」の屋根が特徴で、ここにも豪華な装飾が施されています。ここ以外に台北市内や台北近郊にも、似たような特徴、例えば赤レンガが使われている建物が残っています。

台北市における歴史的建物の移築・保存の第1号

1976年、台北市が敦化南路を拡張するため、予定地に建つ林安泰邸に立ち退きを求めると、邸宅の保存を求める声が多くあがりました。保存にあたっては、移築では建っていた場所との意味付けがなくなるからとの理由で元の場所での保存を求める声もあがりました。当時は、こうした建物の保存に関する法整備もされていなかったため、保存が決まり解体されたのちも、実際に移築工事が始まるまで約10年の歳月を要し、1984年にようやく移築が終わりました。しかし、こうした経緯は1980年代の文化財保存運動の基礎となりました。1981年には文化建設委員会(現在の文化部)が設立され、1982年には「文化資産保存法」が公布施行されました。このように、台湾で文化財の保存が考えられるようになっていった背景には、1970年代に台湾の社会、経済、政治が徐々に安定し、文化の重要性を考える余裕が出てきたこととも関係があります。林安泰邸移築の前にも板橋(新北市)の林本源家の保存など、いくつかの例があります。林安泰古厝民俗文物館は、台湾の歴史建築の保存を考える上でも重要なスポットです。

移築前の風水(阿部由理香提供)

芝生の赤いオブジェ(阿部由理香提供)

さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】【現地体験学習】【事後学習】邸宅内の各部屋について、以下のサイトで事前学習しましょう。現地で体験したことを、帰国後に整理して理解しましょう。 ①3Dサラウンドビューを見て、全体像を把握しましょう。 ②それぞれの部屋の配置 (図)を見てみましょう。 ③個々の展示や調度品 (写真)について理解しましょう。
  • 【現地体験学習】こうした邸宅の造りは風水(ふうすい)と切り離して考えることはできません。風水とは、「場」によりよい「気」の流れをつくることでよい運気を呼び込もうとするものです。例えば、建物は風水の考えから場所や配置、向きに配慮して決め、池をつくることもあります。林安泰邸は移築によって建設当初の風水とは合わなくなってしまいました(移築前の風水は上記の写真を参照)。そこで、以前と同じ風水を再現するため、仮の山や広い芝生の斜面の盛り上がりを造っています。現地で園内を詳しく説明したパンフレットを見ながら、それぞれの意味するものを学びましょう。
  • 【現地体験学習】現地では、芝生に赤いオブジェ(上記の写真を参照)があるのにすぐ気づくことでしょう。また、なんとなく新しいのではないだろうかという建物や庭園がわかるかもしれません。こうしたものの多くは、実は移築されたものではなく、2010年に台北で開催された「花博」の際に新しくつくられたものです。古いものの保存や活用について、古いままがいいのか、新しいものと共存していくのがいいのかを考えてみましょう。
参考資料
YouTubeの「林安泰古厝民俗文物館ガイド」の動画は、全体を視覚的に理解するのに役立ちます。
台北における建築様式の変遷をわかりやすくまとめたものとして、Catherine Shih「台北の建築から見る歴史の変遷」(『台北画刊』、Vol.21、2020年)があります。 台湾の文化遺産の保存・活用については、東京文化財研究所「台湾における近代化遺産活用の最前線」(2019年)を読んでみましょう。

(阿部由理香)

公式ウェブサイト
公式https://linantai.taipei/Default.aspx(中国語・英語)
所在地
台北市中山区濱江街5号

入館料:無料。
休館日:月曜日および旧正月の連休、清明節、端午節、中秋節。
団体ガイド:参観の7日前までに電話で申し込む(02-25996026)。