博物館の展示(八尾祥平撮影)

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郭元益糕餅博物館

郭元益糕餅博物館

歴史が詰まったパイナップルケーキを堪能できる博物館

台湾土産の定番といえば、鳳梨酥(パイナップルケーキ)を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。もともと台湾には漢人が結婚式の引出物としてよく使う囍餅と呼ばれる大きな月餅型のお菓子がありました。鳳梨酥はこの囍餅を小人数でも食べやすいように小型化したものだと言われています。鳳梨酥は外側の生地と中のパイナップルの餡だけなので、手づくりするのもそれほど難しくはなく、台湾では焼菓子づくりを趣味とする人なら必ず自分でつくれるレパートリーのひとつなのだそうです。たとえば、お祝い事のときに、自分で焼き上げた鳳梨酥を家族で食べたり、友人に贈ったりするそうです。1867年に創業した老舗菓子店・郭元益は鳳梨酥や月餅、綠豆糕といった伝統的な焼菓子を扱っており、台北市と桃園市に郭元益糕餅博物館を設置しています。この博物館には、台湾の伝統的な食文化について学べる展示があり、ことに桃園市の博物館は台湾で最大級の「観光工場」と呼ばれる見学施設です。台湾ではどのように観光資源を活用しているのか、近年の観光化施策を学ぶ上でも役立つ施設です。

学びのポイント

台湾のパイナップル

パイナップルの原産地は、現在のブラジルあたりだと言われています。パイナップルの苗は長期間保存できるため、いわゆる「大航海時代」に世界へ拡がりました。台湾には18世紀頃に伝わり、19世紀には台湾島の各地で栽培されるようになったと言われています。台湾のお寺や廟ではパイナップルがお供えされているのをよく見かけます。日本統治時代には、パイナップルを表すさまざまな言葉が使われていました。たとえば、台湾閩南語の王梨(オンライ・「幸せがくる」という縁起の良い語・旺來と同音)、スペイン語のアナナス、英語のパイナップルなどが人によりバラバラに使われていました。1935年に台湾島内のパイナップル缶詰工場が一社に統合された際に、和名:鳳梨(ほうり)、英名:パイナップルに名称を統一し、現在に至っています。パイナップルは台湾の日常的な伝統文化と深く結びついた果物であると同時に、その名称の変遷からも、世界中を旅してきたことがうかがえます。

媽祖廟に供えられたパイナップル(八尾祥平撮影)

鳳梨酥(パイナップルケーキ)

鳳梨酥には大きく分けて二つの系統があります。ひとつは、伝統的な中華菓子店で売られているタイプで、もうひとつは、西洋式のベーカリーで売られているタイプです。もともとは中華菓子ではあるのですが、日本統治時代に日本で西洋式のパンやクッキーなどの製法を学んだ職人たちがその技術で鳳梨酥をつくるようになりました。後者は生地にバターを使うので比較的しっとりした食感であることが多いのですが、必ずしもそうではありません。鳳梨酥で有名な店でも、郭元益のような中華菓子系の店もあれば、その一方で佳徳のようなベーカリー系の店もあります。日本では「中華菓子」として認識されていますが、台湾では町の普通のパン屋さんやケーキ屋さんで鳳梨酥が売られています。中華菓子と洋風菓子という分類の間に絶対的な違いなどありません。そこで、ここでは鳳梨酥をあえて中華菓子とは呼ばずに、シンプルに焼菓子と呼ぶことにします。

囍餅(八尾祥平撮影)

観光工場

台湾には近年「観光工場」と呼ばれる、観光資源化した工場が増えています。「観光工場」にはさまざまなタイプがあり、実際の生産ラインを見学できるものや、現在は使われていない工場をリノベーションし、観光用につくりかえたものなどがあります。郭元益糕餅博物館は創業地の台北士林館と生産センターである桃園楊梅館とがあり、後者は台湾でも最大級の規模を誇る観光工場です。台北でも桃園でも鳳梨酥づくりを体験できる教室が開催されています(要予約)。また、南部の高雄市にも、かつてのパイナップル缶詰工場跡地を「観光工場」化した台湾鳳梨工場があります。
さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】【事後学習】「大航海時代」にアメリカ大陸から台湾へやってきた植物にはパイナップルのほかにどんなものがあるか調べてみよう。逆に、台湾には入ってこなかった植物があるのかも調べてみよう。
  • 【事前学習】【事後学習】お菓子作りと切っても切れない関係にある製糖業や、戦前の台湾の製糖業と日本本土との関連を調べてみよう。
  • 【事前学習】【事後学習】台湾には他にどんな観光工場があり、どのようにして観光化されているのか調べてみよう。
参考資料
台湾におけるパイナップル産業の発展とハワイや沖縄の関係については、八尾祥平「パイン産業にみる旧日本帝国圏を越える移動――ハワイ・台湾・沖縄を中心に」、『植野弘子・上水流久彦編『帝国日本における越境・断絶・残像―モノの移動』(風響社、2020)に詳しく書かれています。台湾と沖縄のパイナップルのつながりについては、菅野敦志『やんばると台湾―パインと人形劇にみるつながり』(沖縄タイムス社、2018)を読んでみましょう。戦前のハワイ・台湾・沖縄のパイナップル産業のつながりを示した専門書として、東栄一郎『帝国のフロンティアをもとめて―日本人の環太平洋移動と入植者植民地主義』(名古屋大学出版会、2022)があります。

(八尾祥平)

公式ウェブサイト
郭元益糕餅博物館 https://www.kuos.com/museum/
桃園観光導覧網https://travel.tycg.gov.tw/ja/travel/attraction/765
所在地
桃園楊梅館:桃園市楊梅区幼獅工業区青年路 9 巷 3 号