紀念館入口(福田栞提供)

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李梅樹紀念館

李梅樹紀念館

高い企画力をもつこぢんまりとした美術館

李梅樹紀念館は、台北MRT板南線頂埔駅からバスで30分ほどの新北市三峽地区にあります。日本統治時代に樟脳、染物産業などで栄え、近代建築が今も残る三峡老街には徒歩で行けるので、観覧のついでに立ち寄ることもできるでしょう。
李梅樹紀念館は台湾の有名な近代画家・李梅樹(1902-1983)を記念して1990年に開館しました。現在の三峽の地に移ってきたのは1995年のことです。生前の李梅樹が三峡庄協議員、県議員等の役職に就いていたこともあり、李梅樹の理念を継承し、芸術の力で三峡一帯を盛り上げようと、春から夏にかけて地域と共同で「梅樹月」というイベントを開催しています。この「梅樹月」に合わせて、毎年企画展を催しています。小規模な美術館ですが、緻密な調査に裏付けられた見ごたえのある展示と、無料で配布される充実したリーフレットも魅力です。

学びのポイント

台湾を代表する近代画家・李梅樹

李梅樹は三角湧(現在の三峡)に生まれ、三角湧公学校、台湾総督府国語学校師範部に学んだ後、1929年に東京美術学校(現在の東京藝術大学)西洋画科に進学します。東京美術学校では小林萬吾や岡田三郎助に師事し、その影響は彼のアカデミックで堅実な画風に色濃く残っています。1927年には台湾美術展覧会で初入選を果たします。その後も日本や台湾の官展に積極的に出品して入選を重ね、近代画家としてのキャリアを築きました。他方、1934年からは三峡庄協議会員などを歴任し、地域の有力者や政治家としての顔も持っていました。戦後の1947年には、三峡祖師廟第三回再建事業の責任者に推薦され、長期にわたって地域の信仰の中心となる廟の再建に尽力しました。1962年からは大学で教鞭をとるようになり、教育活動にも従事しました。
2023年、李梅樹生誕120年を記念して、国立台湾美術館で大規模な回顧展が開催されました。これを機に、芸術活動から政治、教育普及活動に至るまで多方面で活躍した李梅樹の81年にわたる生涯が、より多くの人に知られることとなりました。こうした展覧会の開催は、李梅樹が台湾の美術界のみならず社会に与えた影響が、台湾で高く評価されていることを物語っています。

絵画を見るときのコツ

絵画作品を鑑賞する時、作品のどこに着目したらよいのかわからないということはよくあるでしょう。着目点のひとつは、何か問題意識やテーマを設定することです。例えば、同じ画題を描いていたとしても、作家によって注目するポイントや表現の仕方は少しずつ異なります。その違いを発見し、各作品の特徴を捉えてみることも鑑賞の醍醐味です。李梅樹紀念館の展示では、李梅樹だけではなく恩師や同級生、先輩や後輩といった縦横のつながりが意識されているほか、旅や山岳といった一貫したテーマ性のある作品を集めています。こうした比較の視点を導入することで、李梅樹という画家の特性をより深く理解できるように工夫されています。この点は、絵画鑑賞全般に応用できます。
もちろん、予備知識を持っておけば作品の理解度は一段と上がりますが、まずはあまり肩肘張らず、好きな作品を探すという心持ちで鑑賞することをおすすめします。好きな作品が見つかったら自分はどうしてこの作品が良いと思ったのか、ちょっと違うなと思ったらそれはなぜなのか、言語化することも大切です。絵画は自分と静かに対話をし、自分について深く理解するためのツールにもなります。そして、好きな作品と似た作品を美術全集などから探してみると、その画家が画面を構成する際に、どのような既存の「型」を取り入れたのかが見えてきます。画家も絵画作品も単独では成立しません。画家を取り巻く人的交流はもちろんのこと、時代背景とも密接に関わっています。点と点がつながりだし、徐々に作品に対する理解が深まっていくのが美術作品を読み解く面白さであり魅力でもあるのです。
 
さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】訪れる日程に開催中の展覧会をチェックし、該当作家の情報を可能な限り集めましょう。展覧会のテーマや問題設定の把握にも努めましょう。
  • 【現地体験学習】【事後学習】実際の展示を見て感じたことを話し合ってみましょう。作家が鑑賞側に訴えたかったことは何かを考えてみましょう。
  • 【事後学習】日本の美術館に行き、台湾と日本の近現代美術の相違点や共通点について考え、話し合ってみましょう。
参考資料
李梅樹紀念館のホームページは、一部日本語に翻訳されており、紀念館の概要や画家について把握することが可能です。李梅樹に関する解説は、静岡県立美術館編『東アジア/絵画の近代 : 油画の誕生とその展開』(静岡県立美術館、1999年)や福岡アジア美術館編『官展にみる近代美術』(福岡アジア美術館、2014年)のなかにもあります。こちらは作品を綺麗なカラー図版で見られるのでおすすめです。
さらに、李梅樹が芸術家としてのキャリアを確立した日本統治期の台湾における美術活動については、邱函妮『描かれた故郷:日本統治期における台湾美術の研究』(東京大学出版会、2023年)、および鈴木恵可「日本統治期の台湾人彫刻家・黄土水における近代芸術と植民地台湾 : 台湾原住民像から日本人肖像彫刻まで」『近代画説』(2013年12月)です。どちらも内容はやや専門的であるものの、日本の美術との関わりが深い台湾美術を知る第一歩として欠かすことのできない著作、論考であるといえます。
他方、美術作品の鑑賞するときに重要な観点やヒントを提供してくれるのは、池上英洋『西洋美術史入門』(ちくまプリマー新書、2012年)です。文章も平易で読みやすく、知識の紹介というよりも、そもそもの前提となる絵画の見方について説明しています。

(福田栞)

ウェブサイト
https://limeishu.org.tw/(中国語・英語・日本語・韓国語)
所在地
新北市三峡区中華路43巷10号