台北モスク外観 木村自提供

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台北清真寺

台北モスク

ムスリム(イスラーム教徒)たちの移住の歴史と台湾の多文化・多宗教

金曜日はイスラーム教の集団礼拝の日です。金曜日のお昼ごろ、礼拝参加者の邪魔にならないよう、外から台北モスクをのぞいてみましょう。礼拝堂からあふれんばかりのムスリムたちが集まり、礼拝や談笑をする様子を目にします。彼らの多くはインドネシア人ムスリムですが、それ以外に各国から来ているムスリム学生、在外公館関係者のムスリムなども集まっています。この台北モスクは、イスラーム諸国との外交上の必要性から、1960年に建立され、1999年には台北市指定の古跡に、2013年には台北宗教百景の一つに指定されました。台北モスクに集まる人々の多様性から、戦後台湾における外交政策、労働政策の変遷を垣間見ることができます。

学びのポイント

なぜ台北にモスクが?

今日、台湾で最も中心的なイスラーム教の組織は「中国回教協会」です。その中核を担っているのは、1945年以降に中国大陸などから台湾に移住したムスリム(現在の中国では「回族」と呼ばれています)とその子孫たちです。その頃、台湾にはモスクがありませんでした。そこで彼らははじめ、現在の台北モスクに近い麗水街にあった日本家屋を礼拝所として利用していました。しかし、イスラーム諸国との外交関係を考慮した当時の外交部長(外務大臣)葉公超の提案により、サウジアラビア政府などからの資金提供も得て、1960年に現在のモスクが建立されました。台湾には現在、10のモスクがありますが、台北モスクはイスラーム諸国との外交関係上、最も中心的な役割を担っています。

断食明けの祭りの日に台北モスクに集まったムスリムたち 木村自提供

台北モスクに集まる人びと

モスクでは、国籍、民族、身分にかかわりなく、ムスリムであれば誰でも礼拝することができます。そのため、台北モスクにも、台湾在住のムスリムたちが、国籍や民族の別なく訪れます。台北モスクに集まる人々の多様性は、台湾社会の戦後の移住史と重なります。先に紹介したように、台北モスクは中国大陸から来たムスリムたちによって建設され、運営されてきました。一方、戦前から戦後にかけて中国の雲南省からミャンマーやタイに移住した中国ムスリムたちの中に、台湾政府の華僑移住政策によって、1970年代以降に台湾に来た人もいます。さらに1990年代に入ると、政府の外国人労働者政策によって多くのインドネシア人が台湾に来て働くようになりました。台北モスクは多様な彼らの宗教的コミュニティとしての居場所を形成しているのです。

断食明けの祭りの日に礼拝堂からあふれ出し中庭で礼拝するムスリムたち 木村自提供

なぜ台北市の指定古跡に?

台北モスクが台北市の古跡に指定されたのは、1999年のことです。それまでには紆余曲折がありました。台北モスクの建立は1960年と歴史も浅く、「古跡」としての条件に合いませんでしたが、ムスリム知識人や文化人、議員、台北市政府などが集まって議論を重ねました。その結果、台北モスクには、文化的・宗教的な多様性を象徴した建造物としての意義があるという点が認められて、台北市の古跡に認定されたのです。

断食明けの祭りの日に歩道まであふれて礼拝するムスリム女性たち 木村自提供

さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】イスラームとはどのような宗教でしょうか? イスラームの歴史、ムスリムにとっての善い行い、禁じられている行いなどを調べてみましょう。
  • 【事前学習】モスクとはどのような宗教施設でしょうか。あなたの居住している地域にモスクがあれば、訪問してみましょう。
  • 【現地体験学習】台湾にはハラル認証を受けたレストランが多数あります。どのような料理があるかを調べ、実際に食べてみましょう。
参考資料
台北モスクについての日本語で読める資料は、それほど多くは刊行されていませんが、台湾内政部が運営する「台湾宗教百景」で、台北モスクが紹介されています。
台湾のムスリムの食文化については、砂井紫里「台湾ムスリムの食文化をめぐる交渉と創造」(『文化人類学』83巻4号、2019年)があります。さらに専門的知識を深めたい方には、次のような文献もあります。 木村自「モスクの危機と回民アイデンティティ : 在台湾中国系ムスリムのエスニシティと宗教」『年報人間科学』第25巻、2004年。

(木村自)

公式ウェブサイトおよび言語
台北モスク(台北清真寺)の公式ホームページは次のURLです。中国語と英語で記載されています。
https://www.taipeimosque.org.tw/
所在地
台北市大安区新生南路二段62号
見学は自由ですが、できるだけ肌の露出が少ない服装で行きましょう。特に女性はそれにことに加えて、スカーフなどで髪を覆っているほうが無難でしょう。また、礼拝堂の中に入る際には、事務所で確認をとってからにしましょう。