郭書瑜提供

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蔡瑞月舞蹈研究社

蔡瑞月舞踊研究社

台湾モダンダンスの第一人者として芸術と社会の関係を問い続けた蔡瑞月

台湾モダンダンスの母と呼ばれる蔡瑞月は、1953年に台北で「蔡瑞月舞踊研究社」を開設しました。しかし、1994年の台北MRT(捷運)の建設に伴い、蔡瑞月舞踊研究社は解体の危機に直面し、様々な芸文・市民団体によって舞踊研究社保存運動が起こりました。
多くの人々の尽力により、1999年10月に蔡瑞月舞踊研究社は指定文化財になりましたが、指定文化財になった3日後、蔡瑞月舞踊研究社は放火事故のために、残されていた多くの資料とともにその建物が焼失しました。その後の修復工事を経て、今日の蔡瑞月舞踊研究社は国際的な舞踊交流と人権運動の基地としての機能を果たしています。

学びのポイント

「文化の砂漠」に舞踊の種を植える:蔡瑞月とは誰?

1921年台南で生まれた蔡瑞月は、台南女子高等普通学校(台南第二高女の前身)を卒業後、日本内地に渡って石井漠、後には彼の一番弟子である石井みどりの舞踊研究所に入りました。そして、石井みどり舞踊団の一員として、満州や南洋などで、戦時期の慰問舞踊団として1000回以上の公演を行いました。
日本統治時代には帝国日本の植民地である台湾は「芸術未開の地」と見なされていました。日本内地で文化の啓蒙を受けた蔡瑞月は終戦後、「文化の砂漠」と言われていた台湾に現代舞踊の種を植えようと決意し、舞踊教室を立ち上げました。世界各国の舞踊を広く研究し、台湾文化の要素をも舞踊プログラムに取り入れ、台湾での現代舞踊教育に尽力しました。

牢獄とバラ:芸術創作と社会問題の繋がりは?

蔡瑞月が台湾に戻った翌年の1947年、全島規模で「二二八事件」が起こりました。後に戒厳令が敷かれ、蔡瑞月の夫、雷石榆は1949年に思想犯とされて、中国・広州に追放されました。その影響を受けた蔡瑞月も思想犯として3年間の牢獄生活を送りました。囚われても蔡瑞月の創作意欲は止むことなく、牢獄の中で新たな舞踊プログラムを相次いで生み出しました。台湾の東側にある緑島の新生訓導処に送られた彼女は、獄中でも何度か看守や長官、囚人たちの前でパフォーマンスを行いました。
蔡瑞月はその後の創作でも、社会問題と舞踊を結合させ、舞踊を通じて人々に社会問題を考えさせるように努力しました。彼女のライフヒストリーは台湾のモダンダンス発展史、人権史に密接に結びついています。

舞踊、土地と愛:有形・無形文化財を人権基地へ

日本統治時代の官舎であった蔡瑞月舞踊研究社は、有形文化財として歴史的な意味を持つ一方、台湾の現代舞踊が形成された拠点という無形文化財としての意味も併せ持っています。それだけではなく、蔡瑞月舞踊研究社は踊りを通して、様々な社会問題に対する関心を喚起すべく努めています。先住民族、環境、少女買春や台湾独立などの主題を舞踊プログラムに取り入れているのもその例です。近年では、中国での政治弾圧問題などにも関心の据野を広げ、様々な人権団体と協力し、定期的なパフォーマンスと講演活動を行っています。このように、蔡瑞月舞踊研究社はその場所の歴史的価値を活かし、今もなお人権運動の基地として社会へ問題を提起し続けています。

郭書瑜提供

さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】蔡瑞月舞踊研究社の公式Webサイトで、舞踊研究社がやってきたイベントの動画を見てみましょう。
  • 【事前学習】蔡瑞月が出獄後に創作した「あやつり人形参上」のパフォーマンスを見て、蔡瑞月で何を表現しようとしたのか考えてみよう。
  • 【事前学習】【事後学習】蔡瑞月の創作表現は、日本統治期の戦地慰問、獄中期、出獄後の人権運動(「あやつり人形参上」「死と少女」など)と、三つの時代において作風が異なります。その変化の意味について考えてみましょう。
参考資料
蔡瑞月のライフヒストリーや舞踊研究社の活動については、公式Webサイトに掲載されている動画を見てみましょう(https://www.dance.org.tw/玫瑰古蹟藝術短講/導覽影片video-tour)
蔡瑞月本人を扱ったものとして、陳麗貴監督のドキュメンタリー映画『暗瞑 ê 月光:台湾現代舞踏先駆蔡瑞月』があります。ドキュメンタリー映画については、楊韜、星野幸代「蔡瑞月文化基金会董事長・䔥渥廷氏およびドキュメンタリー『暗瞑ê 月光:台湾現代舞踏先駆蔡瑞月』監督・陳麗貴氏に聴く」『メディアと社会』(6)、 2014年が詳しく紹介しています。ゼロ・チョウ(周美玲)監督の映画『流麻溝十五号』は蔡瑞月が投獄された緑島の新生訓導処を舞台に女性政治犯の獄中生活を描いています。この映画で主人公が踊ったダンスは蔡瑞月の創作作品です。やや専門的な論考ですが、星野幸代「日本国内をめぐった戦時期慰問舞踊──石井みどり舞踊団1941–1945」『JunCture 〈09〉 ―超域的日本文化研究 特集:移動する戦時プロパガンダ・メディア』(2018年3月)は、蔡瑞月を含む石井みどり舞踊団が行った戦時期の慰問舞踊について論じています。

(郭書瑜)

ウェブサイト
https://www.dance.org.tw/關於我們about-us/蔡瑞月文化基金會介紹(英語・日本語あり) 
所在地
104台北市中山区中山北路二段48巷10号
No. 10, Ln. 48, Sec. 2, Jhongshan N. Rd., Taipei 104, Taiwan