洪郁如撮影

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嘉義公園

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嘉義公園

台湾の歴史がもつ多様なルーツを公園内の施設に学ぼう!

嘉義市街の東端にある嘉義公園は日本統治期に整備された公園が、旧嘉義神社とあわせて戦後に再整備された公園です。戦後は中華民国の「国父」孫文の別名から中山公園と改称され、入口の孫文座像や中華風意匠の門が建てられました。旧神社本殿は軍人・警察官などの殉職者の追悼施設となっていましたが、1990年代の焼失後、新たに展望台と追悼施設を兼ねたタワー(射日塔)が建てられています。本殿跡までの石階段と両側の石灯籠・手水舎は現存しており、かつてこの場所が神社であったことを偲ばせています。かつての神社社務所は現在修復され嘉義市の歴史を紹介する史蹟資料館となっています。公園には野球場(嘉義市立棒球場)と日本統治期からの歴史をもつ植物園(嘉義樹木園)が隣接しておりこちらも見どころです。

学びのポイント

嘉義公園と旧嘉義神社のかかわりは?

1906年の嘉義地震後によって嘉義の市街は大きな被害を受け、震災後、公園整備を含む新たな都市計画がすすめられました。新たな都市計画のなか1915年に建立されたのが嘉義神社です。建立後20年を経て初代の神社は老朽化がすすみ、1930年代には改築が計画されます。折しも日中戦争の開始に際して「皇民化」の風潮が高まるなか、嘉義神社は公的な補助金と寄付金を獲得して改築にとりかかりましたが、戦争に伴う物資不足で新たな神社の完成は1944年にまでずれ込みました。第二次大戦後、神社は中華民国へ引き渡され、嘉義公園の一部へ組み込まれていましたが、1990年代の火災で旧本殿は消失し、跡地に展望台と追悼施設を兼ねたタワー(射日塔)が建てられました。現在、大正期につくられた石灯籠や狛犬、昭和の改築で作られた社務所(現・史蹟資料館)が神社跡地に残され、この場所がかつて神社であったことを伝えてくれます。

洪郁如撮影

「射日塔」のデザインは何を象徴しているのでしょうか?

2つに分かれた塔の中央部には金属製の透かしレリーフが貼り付けられています。このレリーフは先住民族の「太陽を射た男たち」の神話の場面をかたどりつつ、遠目から見ると嘉義県東部の阿里山地域にあるヒノキの「神木」がイメージされるようにデザインされています。第二次大戦後、旧嘉義神社の建物はと中華民国へ引き渡され、中華民国のために命を捧げた軍人・・警察官など「烈士」(れっし)たちを慰霊する忠烈祠(ちゅうれつし)として再利用されました。現在の射日塔が建つ丘は、日本統治期には日本の統治を象徴する神社として、第二次大戦後は中華民国の統治を象徴する忠烈祠として用いられてきた場所でした。台湾の民主化がすすんだ1990年代に新しく建造された射日塔のデザインは、清朝・日本・中華民国の統治を俯瞰して台湾の歴史をとらえ直そうとするメッセージが込められているのです。

中華民国交通部観光局提供

球場前に立つ七頭の虎と嘉義のかかわりとは?

野球(中国語では「棒球」)は日本統治期の台湾に伝わり、戦前の1931年に嘉義農林学校(嘉農)が甲子園で準優勝を遂げたエピソードは映画「KANO」1931海の向こうの甲子園(2014年公開)の題材ともなりました。戦後も学生野球の伝統は続き、1969年、台湾の少年野球チーム「金龍少棒隊」がリトルリーグ世界選手権で優勝、翌年にも嘉義出身者からなるチーム「七虎少棒隊」が再び世界選手権への出場を果たしました。少年野球チ―ムの活躍は当時国際外交の中で孤立しつつあった台湾の人々に熱狂をもって迎えられ、台湾全土にアマチュア野球ブームを生み出しました。「七虎少棒隊」の活躍を称えて嘉義野球場前に作られたのが「七虎、諸羅に耀く」(諸羅(しょら)は嘉義の古名)の像です。
さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】【事後学習】台湾各地に残る神社跡と近年の地域おこしとの関係について調べてみましょう。
  • 【事前学習】【事後学習】現在、台湾のスポーツ競技のナショナルチームは、「チャイニーズタイペイ」(中華台北)名義でオリンピックに参加していますが、「チャイニーズタイペイ」という呼称の経緯について調べてみましょう。
  • 【現地体験学習】嘉義公園の中には、嘉義出身で台湾を代表する画家・陳澄波の作品が飾られています。鑑賞してみましょう。
参考資料
台湾の近世から現在までのおおまかな歴史と各民族間の関係については、赤松美和子・若松大祐編『台湾を知るための60章』(明石書店、2016年)および亜洲奈みづほ『現代台湾を知るための60章【第2版】』(明石書店、2012年)を参照するとよいでしょう。台湾の野球史について1990年にはじまったプロリーグ以前の戦後史について日本語著作から知るのは難しい状況です。KANOこと嘉義農林を含む戦前台湾の学生野球全般の状況については川西玲子『戦前外地の高校野球――台湾・朝鮮・満洲に花開いた球児たちの夢』(彩流社、2014年)が参考になります。

(前野清太朗)

ウェブサイト
交通部観光局https://jp.taiwan.net.tw/m1.aspx?sNo=0003117&id=5962
嘉義市観光旅遊網(嘉義市政府)https://travel.chiayi.gov.tw/about-content?id=3
所在地
嘉義市東区啓明路264号