台湾でバスや電車などに乗ると中国語と台湾語の他にもう一つの言語でアナウンスされていることに気づきます。それが客家語です。中国大陸から台湾への漢民族の本格的な移住は17世紀に始まりますが、その移住者の一部が漢民族の中でも頻繁に移動する集団である客家と呼ばれる人々でした。彼らの話す言葉が客家語です。台湾に渡った客家人の多くは、北埔のような山間の地に居住しました。政府統計によると北埔を含む新竹県では、人口の約3分の2が客家人です。客家人の伝統的家屋(夥房)は、正面に先祖を祀る祖廟、中庭を取り囲んで両脇に台所や寝室、客間などの部屋が配置され、全体としてコの字型をしています。これが客家式三合院の特徴で、北埔老街では天水堂や忠恕堂などの古跡にその姿を見ることができます。
國府俊一郎提供
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経済が急速に発展すると大企業が発達する都市部と中小企業が支える地方との経済格差が広がります。そのため、地方の産業をおこし、観光客を魅きつける「町おこし」が台湾でも盛んに行われました。1989年に台湾政府の経済部中小企業処は「一郷鎮一特産(One Town One Product)」のスローガンのもと、全台湾で319ある町(郷鎮市)にそれぞれ一つずつ特産品を指定し育成するという「町おこし」プロジェクトを始めました。その一環で地域の伝統的な町並みを保存して観光資源とする「老街」が各地に形成されました。北埔老街もその一つで、「擂茶」や「石柿」が特産品として推されています。他の「老街」にも必ず特産品があります。
ここでは北埔老街の特産となった「擂茶」と「石柿」について説明します。「擂茶」とは、茶葉と雑穀類をすりつぶし、お湯で溶く客家人に特有な食文化です。客家の人々が戦乱を逃れて移住し、物が乏しい時に、お客さんをもてなすために始めた風習だと言われています。第二次世界大戦後の苦しい折に台湾の客家人に広まった擂茶は、北埔の「一郷鎮一特産」に選ばれ、現在は北埔に特徴的な文化となっています。
「石柿」は新竹県の気候を活かした特産品です。新竹県では秋から冬にかけて冷たく乾燥した「九降風」が吹きおろします。その風を利用して、毎年10月下旬から「石柿」と呼ばれる干し柿を作ります。渋柿の皮を剥いて太陽の下に7日ほど干して乾燥させると、噛みごたえ(台湾で言うQQ感)があって、自然の甘みがある干し柿、「石柿」ができ上がります。石柿を用いた柿餅もさることながら、柿が大量に干してある風景もまた北埔の特色となっています。
國府俊一郎提供
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