台南出身の創業者、呉清友氏は、もともとは欧米のインテリア設備や建材を輸入する小さな会社を営んでいましたが、自身の心臓の手術をきっかけに一念発起し、本屋を 開業しました。38年に及ぶ世界最長と言われる戒厳令が解除された2年後、1989年のことです。文化、芸術、ライフスタイルをまたいでクロスオーバーな価値を創造してきた誠品書店は、いま台湾で活躍するクリエイターや文化人に多大な影響を与えてきました。2017年に呉氏は亡くなりましたが、「わたしが開くのは書店ではなく、読書を広める場所だ」という意志はその後も引き継がれています。
誠品書店は、最初から経営が順調だったわけではありません。十数年間も続いた赤字の時期、それを経済的に支え続けたのが、電子部品メーカーのペガトロン会長・童子賢氏でした。文化創造を様々な形で応援、支援する個人サポーターは、台湾の文化を語る上で欠かせない存在です。
誠品書店に触れながら大きくなった「文青」(文芸青年の略)たちが、今や台湾各地で個人書店を開き、雑誌や本を作っています。書店にはカフェが併設され、読書イベントがよく開催されるなど「読書を広める場所」という誠品の精神はここにも息づいているようです。それぞれの書店にオーナーの個性の感じられる台湾の個人書店を訪ね、日本の書店のあり方と比べてみましょう。
中華民国交通部観光局提供、長栄国際股份有限公司撮影