大溪老茶廠 大渓老茶工場

「美しすぎる紅茶工場」で感じる台湾紅茶の歴史

山﨑直也撮影

「美しすぎる紅茶工場」として一躍人気になった大渓老茶廠の前身は、日本統治時代の1926年に建設された角板山製茶工場です。台湾のお茶と言えば烏龍茶がまず思い浮かびますが、この工場で生産された高品質の紅茶は、当時ロンドンの市場でも高く評価されました。戦後は、官営の台湾茶業公司の大渓茶場となり、1955年に民営化、56年には大きな火災に見舞われたものの、59年に再建されました。その後、台湾紅茶が世界市場での競争力を失ったことで、一度は1995年に操業停止に追い込まれましたが、2010年に新たなコンセプトの下で、大溪老茶廠として生まれ変わりました。

学びのポイント

台湾における茶産業の重要性

「400年の台湾史」という言い方がありますが、この400年の中で、今日のように台北がこの島の政治的・経済的中心であった期間は、実はそれほど長くはありません。1624年から62年まで台湾島を統治したオランダ東インド会社と、それを駆逐した鄭氏一族は、現在の台南に拠点を置き、それに続く200余年の清朝統治も、おおむね台南を中心に展開しました。台湾島の政治的・経済的中心が南部から北部に移ったのは19世紀後半のこと。当時国際市場で高い商品価値を有していた茶葉が北部で生産されるようになったこと、1860年の北京条約で台北に近い淡水が条約港として開港され、台湾茶を世界に輸出する窓口の役割を担ったことが要因とされています。

日常に寄りそう紅茶のルーツ

日本の台湾統治が安定を見せた1920年代、従来の包種茶、烏龍茶に加えて、紅茶の生産が始まりました。1926年に現在の大渓老茶廠の前身である角板山製茶工場を建てたのは、日本の三井合名会社で、28年に「合名茶」の名称で国際市場に進出した台湾産紅茶は、世界的に高い評価を得ました。1930年代には「三井紅茶」から「日東紅茶」にブランド名を変更、今なお多くの人に親しまれる紅茶商品のルーツは、実は台湾にあったのです。最盛期には三交代制で昼夜休まず操業し、年間600万トンを生産してもなお追いつかないほどの海外需要がありました。当時紅茶は極めて高い商品価値を持ち、「黒い金(きん)」とさえ呼ばれたと言います。

「美しさ」の理由は?

ダージリンの紅茶工場を模した大渓老茶廠の外観は、確かにすっきりとして美しいものですが、「美しすぎる」とまで言われるのは、古い工場の魅力を残しつつ、現代のセンスでリノベート(改修)した空間設計の妙、取り扱う商品のパッケージとディスプレイの美しさがあってのことです。現在の台湾のクリエイティビティが十分に表現された空間で、現代的な自然農法で生産されたお茶を味わいながら、在りし日に思いを馳せてみるのもよいかもしれません。

山﨑直也撮影

さらに学びを深めよう

  1. 【事前学習】【事後学習】国際貿易の重要商品としてのお茶(紅茶)の歴史を調べ、その全体像の中に台湾紅茶を位置づけてみましょう。
  2. 【事前学習】【事後学習】大渓老茶廠の紅茶と同様、日本統治時代にルーツを持ち、今日の台湾を代表する紅茶として人気の台茶18号“紅玉”(南投県産)の歴史について調べてみましょう。
  3. 【現地体験学習】紅茶製造の機械、道具の実物を見ながら、同じチャノキ(茶の木、学名:Camellia sinensis)の葉が製造工程の相違によって、緑茶となり、烏龍茶となり、紅茶となることを理解しましょう。

参考資料

商品としての茶の歴史を広い視野でとらえる古典的名著として角山栄『茶の世界史』(中公新書、1980年初版、2017年改版)があります。包種茶を中心に日本統治時代の台湾の茶産業を論じたものとして、河原林直人『近代アジアと台湾 台湾茶業の歴史的展開』(世界思想社、2003年)が参考になります。特に紅茶産業に関するものとして、須賀努「台湾茶の歴史を訪ねる第二回 (2)輸出された台湾紅茶」(『交流』No. 916、2017年7月)があり、筆者の須賀氏が大渓老茶廠を訪れています。また、下記の大渓老茶廠の公式サイトには、中国語ナレーション+英文字幕ですが、同工場の歴史と現在を約10分にまとめた動画があるので、訪問前に目を通しておくことをおすすめします。

(山﨑直也)

ウェブサイト
公式http://www.daxitea.com/
桃園観光導覧網(桃園市政府観光旅遊局)https://travel.tycg.gov.tw/ja/Travel/Attraction/1368
所在地
桃園市大渓区新峰里1鄰復興路二段732巷80号
特記事項
1. 参観には事前申込が必要。申込表は公式サイトでダウンロードする。 2. 専門ガイドは11:00、14:00、15:30の3回。その他の時間帯にガイドを希望する場合は、20人以上、料金NT$100/人で申込可能。入場料金はすべて構内で販売している商品の購入に当てられる(食事と飲み物を除く)。ガイドはビデオ視聴も含めて60分間で、来場日の7日前までに予約する。