冨田哲撮影

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基隆廟口夜市

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基隆廟口夜市

基隆で古くから信仰を集め続けてきた廟の周囲に広がる夜市

廟口夜市とは、人々の信仰の場である廟の周辺に夜店が広がる界隈のことで、基隆に限らず台湾各地で見られるものです。そのなかでもいちばん知名度が高いのは、おそらく基隆の廟口夜市でしょう。基隆の中心部に位置する奠済宮という廟の一帯は、毎晩地元住民や観光客でにぎわい、時によっては前に進むにも苦労するほどです。とくに奠済宮の北側を通る仁三路、また仁三路と交差する愛四路には所せましと屋台や店舗がならび、客寄せの大きな声がひびきます。仁三路の両側には夜の街にはえる黄色い提燈がかかげられ、基隆廟口夜市のシンボルとも言える美しい風景をつくりだしています。

学びのポイント

奠濟宮とは?

今日では新北市の一部になっている板橋を本拠としていた林本源家という家族が土地を寄贈して1875年に建立された道教の廟で、同じく基隆中心部にある城隍廟、慶安宮とともに基隆三大廟の一つです。福建の漳州地域の開発に功があったとされる人物が神となった開漳聖王が主神で、漳州から台湾にわたってきて基隆に住みついた人々やその子孫にとって精神的なよりどころとなっていました(林本源家も先祖が漳州出身)。なお奠濟宮の本殿の後方に清甯宮という廟がありますが、これはもともと、奠濟宮より前の時期に福建の泉州地域出身者によって建てられたもので、日本統治初期に奠濟宮の一部となりました。

冨田哲撮影

なぜ廟のまわりに夜店が?

日本にも門前町と呼ばれるところがありますが、祭りの日でもなければ夜店がならんでおおぜいの人々を集めることはあまりないでしょう。しかし、台湾各地の廟口夜市は地元の住民にとって日常生活の一コマで、多くの人々が自宅、通学先、勤務先の近くの夜市で夕食やショッピングを楽しみます。奠濟宮のように古くからある廟の周囲で夜遅くまで人通りがたえないのも、何らめずらしい光景ではありません。

港町だけに海産物が多い?

さまざまな食事が楽しめますが、港町らしく海産物も豊富です。廟口夜市から基隆駅の方向に少し歩いたところに、台湾北部有数の崁仔頂漁市という魚市場があります。廟口夜市で供される海産物も、ここを経由しているものが多いことでしょう。もっとも、魚市場の取引が行われるのは深夜から早朝にかけてなので、夜市での食事の後に行っても閑散とした風景が広がっているだけですが、もし翌日の行程に余裕があるのであれば、夜更かしして訪れてみてはいかがでしょうか。
さらに学びを深めよう
  • 【現地体験学習】夜市で夕食をとっている人、奠済宮に参拝に来ている人はどのような人々でしょうか。
  • 【事前学習】【事後学習】台湾の水産業について調べてみましょう。台湾各地で水揚げされる魚介類はどこでとれたものが多いでしょうか。漁業に従事しているのはどのような人々でしょうか。
  • 【事前学習】【事後学習】基隆には、廟口夜市がある「仁三路」や「愛四路」のように、漢字一字と数字を組み合わせた名称の道路が何本も通っています。このうちおおむね南北に走っている「愛〇路」と「義〇路」は、どちらも「一路」から「七路」までと「九路」があるのに、なぜか「八路」がありません。どうしてでしょうか。
参考資料
赤松美和子・若松大祐編『台湾を知るための60章』(明石書店、2016年)の第6章「エスニック・グループ」には中国大陸での出身地を同じくする人々の同族意識について説明があり、また第44章「飲食文化」では、基隆廟口夜市の名物でもある甜不辣(さつまあげ)をはじめ各地の夜市でもよく見られる料理が紹介されています。田村志津枝『台湾人と日本人―基隆中学「Fマン」事件』(晶文社、1996年)は、1942年はじめに旧制の基隆中学校で発生した事件を描いたノンフィクションです。台湾人生徒が日本からの独立を主張する結社を結成したとして、日本人生徒に暴行を受けたり特別高等警察に拘留されたりしました。奠濟宮など基隆の街角の様子が随所に登場します。

(冨田哲)

ウェブサイト
交通部観光局 https://jp.taiwan.net.tw/m1.aspx?sNo=0003105&id=298
所在地
基隆市仁愛区仁三路など