前原志保撮影

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國家人權博物館 白色恐怖綠島紀念園區

国家人権博物館 白色テロ緑島紀念園区

国家による人権侵害の苦い歴史と美しい自然をあわせ持つ島

緑島は、台湾の南東岸に位置する面積約16平方キロの小島です。火山の噴火によりできた島なので日本統治時代は火焼島と呼ばれ、戦後の1949年に現在の緑島という名前になりました。この自然豊かな緑島には30年以上もの間、政治犯の監獄が設置されていました。その監獄は現在、国家人権博物館白色テロ緑島記念園区として生まれ変わり、訪れる人々に戦後の台湾で起きた政府による人権侵害抑圧の歴史を伝える場所となっています。人権博物館の主な見所は、思想改造と再教育を目的とした施設である「新生訓導処」と「緑洲山荘国防部緑島感訓監獄」(通称:「緑洲山荘」)と呼ばれた政治犯を収容した監獄の跡地です。

学びのポイント

監獄「緑洲山荘」はどのような施設でしょうか?

緑洲山荘は、緑島に1972年から1987年まで設置された最大規模の監獄(刑務所)です。獄舎は放射状に4棟にわかれています。この形は19世紀に世界各国で建てられた監獄の代表的な形式のひとつだと言われています。全部で52の部屋があり、一番多い時で約500人が収容されていました。内部は、雑居房、独居房、懲罰房などにわかれ、現在も監獄として使われていた当時のままの姿で保存されています。懲罰房は、壁の高い場所に穴が空いているだけで、閉じ込められると真っ暗です。長時間閉じ込められると発狂する者も多くいたと言われています。幽閉に耐えられない監禁者の自殺を防止するために、壁には厚さ約10センチの柔らかいクッションが貼られています。

前原志保撮影

「新生訓導処」に入れられた人たちはどのような生活をしていたのでしょうか?

1951年から1965年まで設置されていた「新生訓導処」。ここは白色テロの時代、死刑を免れた人が入り「新生(新しく生まれ変わる)」するための思想改造教育が行われた場所です。送り込まれた人々は、3つに分かれた大隊の一つに入れられます。ひとつの大隊は、さらに4つの中隊に分かれます。最も多い時期には約2000人の「政治犯」が収監され、1951年から1954年までは女性の部隊も存在しました。ここに収監された受刑者たちは比較的高学歴の人が多く、政治犯となってこの地に送られた医者たちは、この島の医療衛生の発展に貢献しました。また自給自足の生活を余儀なくされた人々は、家畜を育てたり、海風が強く耕作にむいていない荒地を耕し野菜畑を作ったりしていました。新生訓導処での生活は緑洲山荘とは異なり、京劇や楽団の演奏会、運動会など娯楽活動もありましたが、これも思想改造の一つであり、その内容は必ずイデオロギーに合ったものでした。

前原志保撮影

さらに学びを深めよう
  • 【事前学習】戒厳令が発令されるきっかけとなった「二二八事件」「戒厳令」「白色テロ」「政治犯」「移行期の正義」など、この博物館を見学する際に必要なキーワードがあります。台湾で過去におきた国家ぐるみの人権侵害問題を理解するために、それらの意味を調べてみましょう。
  • 【現地体験学習】白色テロ緑島記念園区の中に建てられた人権記念碑には、かつて緑島に送られた「政治犯」と呼ばれていた人々の名前が刻まれています。その数を数えてみましょう。また、人々の名前の下には「死刑」「服役年数」「感化」という文字が彫られています。それも同時に確かめてみましょう。
  • 【現地体験学習】「緑洲山荘」と「新生訓導処」のちがいはなんでしょうか。2つの場所に入れられた「政治犯」たちはどのような生活を送っていたのでしょうか? 実際に見学して比較してみましょう。
  • 【事後学習】このような歴史的跡地は「不義遺跡(不正義遺跡)」と呼ばれています。「不義遺跡」はこの博物館だけを指すのではなく、台湾全土にある様々な軍や警察、特務機関の所在地、政治犯が逮捕された場所、尋問や裁判、刑の執行が行われた場所などが含まれます。台湾はなぜ最近になってこれらの博物館を設置することにしたのでしょうか? このような場所を保存し後世に受け継いでいくことの大切さについてみんなで話し合ってみましょう。日本にもこのような場所はあるでしょうか?
参考資料
台湾の公共放送局である、Rti台湾国際放送のyoutubeチャンネルに『台湾の人権に出会う旅―白色テロ緑島記念パーク』という5分弱の動画があります(日本語)。『東部海岸国家風景区』は、台湾の東区海岸の主な見所を紹介する台湾観光局が運営するサイトです(元々中国語ですが、グーグル翻訳で日本語に切り替わります)。萬仁監督の映画『スーパーシチズン超級大国民』には、大学の読書会に参加した結果、逮捕され無期懲役を言い渡された主人公が新生訓導処に収監され、家族が緑島に面会に行く場面が描かれています。詩人の張香華は、『愛する人は火焼島に―詩集』(今辻和典訳、書肆青樹社、1999年)と題して、緑島に収監された夫である柏楊を思い読んだ詩集を出版しています。

(前原志保)

ウェブサイト
公式https://www.nhrm.gov.tw 台東観光旅遊網https://tour.taitung.gov.tw/ja/attraction/details/894
所在地
台東県緑島郷公館村将軍巌20号
特記事項
ガイドツアー有(現在中国語のみ)。
日本語のパンフレットと日本語の音声ガイド有
展示は全て中国語、一部英語。