Sankuをアートにする制作過程(下野寿子撮影)
光織屋-巴特虹岸手作坊(PateRongan Art)
光織屋-巴特虹岸手作坊(PateRongan Art)
先住民の伝統漁具は環境にやさしいアートになった
ファイバー・アーティストの陳淑燕さんと竹藤編工芸家の杜瓦克(ドワク)さんは、台湾東部の新社にある工房で、地元で採集した植物を用いた工芸品を制作しています。ドワクさんは、竹と藤の蔓を使って、伝統漁具の筌(うけ)を大型化したSanku(サンク)を制作します。陳さんは、樹皮からランプシェードや小物を作ったり、自然素材から抽出した染料で染め物を仕上げたりします。二人は、地元で手に入る、自然の恵みを生かした材料とクバラン族の伝統的技法を用いて、現代社会で受け入れられる日用品としての用途を探り、新しい産業の創造に結びつけることを目指しています。工房では、クバラン族の伝統文化と技術を継承するためにワークショップも開催しています。
学びのポイント
クバラン族ってどんな民族?
クバラン族は人口1400人余りの先住民族です。18世紀まで宜蘭の蘭陽平原に住んでいましたが、入植してきた漢人に追われて南下しました。漢人と同化したり、アミ族に紛れ込んだりして生きてきたため、その存在は長く外部に知られていませんでした。その中で、クバラン族は独自の言語や文化を守ってきました。2002年に台湾で11番目の先住民族として政府から認定され、クバランという民族の名前を取り戻しました。クバランの女性はバナナの樹の繊維から糸を紡いで布を織り、男性は漁労で生計を支えます。海祭や豊年祭は男性が中心となり、祖霊祭は女性が取り仕切るなど、独特の習慣があります。
Sankuはどんなもの?
Sankuは渓流で魚を捕る時に使う大型の筌で、小型のものはBubuと言います。ふだんはBubuを渓流に沈めて小魚を捕りました。大雨で水量が増すと、渓流の低い方にV字型に石を並べ、真ん中にSankuを固定し、上流から下って来るウナギや大きな魚を捕まえました。強い水流を受けても壊れないように、耐久性に優れた刺竹などを使い、材料竹の片方の根元をいくらか残して12等分または16等分になるよう割り目をつけて作ります。出来上がったSankuは、数日海に浸けたり、煙で燻したりして殺虫します。
植物が芸術作品になる?
工房では地元で採れる植物を用いて作品を作ります。ドワクさんが数か月かけて作るSankuは、開口部を地面に立てて藁小屋の骨組みにしたり、形状にねじりを加えてアート作品にしたり、叩いて薄く伸ばした樹皮と組み合わせて照明器具にしたりします。光織屋制作のオブジェが設置された海沿いの新社棚田は、インスタ映えスポットとして人気があります。2020年のランタン祭りでは出品された作品の芸術性が高く評価されました。
下野寿子撮影
さらに学びを深めよう
- 【事前学習】【事後学習】インターネットで「香蕉絲工坊」または「Lalaban」を検索して、バナナ繊維を用いたクバラン族の伝統工芸についても調べてみましょう。
- 【事前学習】【事後学習】日本の筌の素材、作り方、使い方を調べて、クバラン族の筌と比較してみましょう。
- 【現地体験学習】先住民の伝統工芸はどのような点で「地球にやさしい」のか、工房での作品の制作過程やクバラン族の生活を観察して調べてみましょう。
参考資料
クバラン族については、ジャーナリストの松田良孝氏のブログ記事「クバラン族のバナナ糸」(2019年2月4日)が映像で紹介しています。少し専門的になりますが、森口恒一「クヴァラン族、その現在と歴史―台湾の一漁村(新社)の調査より―」(『季刊人類学』第8巻第2号、1977年6月)に出てくる新社村の描写は、現在でも1970年代の面影が残っているため、参考になるでしょう。より専門的な内容になりますが、新社村で長期のフィールドワークを行った日本人研究者の清水純氏が、女性中心の祖霊祭や家族状況について清水純『クヴァラン族―変わりゆく台湾平地の人々』(アカデミア出版会、1992年)に詳しく記しています。